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東京地方裁判所 平成7年(ワ)2789号 判決 2000年1月31日

原告

甲野太郎

乙川次郎

右両名訴訟代理人弁護士

小部正治

小林譲二

南典男

被告

アーク証券株式会社

右代表者代表取締役

安藤龍彦

右訴訟代理人弁護士

中山慈夫

男澤才樹

中島英樹

主文

一  原告らの請求中本判決確定の日の翌日以降の賃金請求に係る訴えは、これを却下する。

二  被告は、原告甲野太郎に対し、次の各金員を支払え。

(一)  金二三万九八二〇円並びに内金七万九九四〇円に対する平成五年二月二六日から、内金一〇万〇三八〇円に対する同年三月二六日から、内金五万九五〇〇円に対する同年四月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(二)  金四七万七〇〇〇円及び内各金七万九五〇〇円に対する平成五年五月から同年一〇月までの間の各月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(三)  金六二万四三〇〇円及び内各金一〇万四〇五〇円に対する平成五年一一月から平成六年四月までの間の各月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(四)  金六五万七五〇〇円及び内各金一三万一五〇〇円に対する平成六年五月から同年九月までの間の各月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(五)  金一四〇万三五〇〇円及び内各金二〇万〇五〇〇円に対する平成六年一〇月から平成七年四月までの間の各月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(六)  金三三四万四四〇〇円及び内各金二七万八七〇〇円に対する平成七年五月から平成八年四月までの間の各月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(七)(1)  金二〇一万六〇〇〇円及び内各金二八万八〇〇〇円に対する平成八年五月から平成八年一一月までの間の各月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(2) 金三四五万六〇〇〇円及び内各金二八万八〇〇〇円に対する平成八年一二月から平成九年一一月までの間の各月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(3) 金一四四万円及び内各金二八万八〇〇〇円に対する平成九年一二月から平成一〇年四月までの間の各月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(4) 金一四四万円及び内各金二八万八〇〇〇円に対する平成一〇年五月から平成一〇年九月までの間の各月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(八)  金二三二万七五〇〇円及び内各金三三万二五〇〇円に対する平成一〇年一〇月から平成一一年四月までの間の各月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(九)金二一二万一〇〇〇円及び内各金三五万三五〇〇円に対する平成一一年五月から平成一一年一〇月までの間の各月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(一〇)  平成一一年一一月から本判決確定の日まで毎月二五日限り各金三五万三五〇〇円

三  被告は、原告乙川次郎に対し、次の各金員を支払え。

(一)  金一五万九一八〇円並びに内金五万三〇六〇円に対する平成五年二月二六日から、内金七万三一二〇円に対する同年三月二六日から、内金三万三〇〇〇円に対する同年四月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(二)  金二八万五〇〇〇円及び内各金四万七五〇〇円に対する平成五年五月から同年一〇月までの間の各月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(三)  金四三万四一〇〇円及び内各金七万二三五〇円に対する平成五年一一月から平成六年四月までの間の各月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(四)  金五一万二五〇〇円及び内各金一〇万二五〇〇円に対する平成六年五月から同年九月までの間の各月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(五)  金一二六万三五〇〇円及び内各金一八万〇五〇〇円に対する平成六年一〇月から平成七年四月までの間の各月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(六)  金一二七万八五〇〇円及び内各金二五万五七〇〇円に対する平成七年五月から同年九月までの間の各月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(七)  金一九七万八九〇〇円及び内各金二八万二七〇〇円に対する平成七年一〇月から平成八年四月までの間の各月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(八)  金一八三万九〇〇〇円及び内各金三〇万六五〇〇円に対する平成八年五月から同年一〇月までの間の各月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(九)(1)  金三一万四〇〇〇円及びこれに対する平成八年一一月二六日から支払済みまで年六分の割合による金員

(2) 金一五七万円及び内各金三一万四〇〇〇円に対する平成八年一二月から平成九年四月までの間の各月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(一〇)(1)  金二三五万五五〇〇円及び内各金三三万六五〇〇円に対する平成九年五月から平成九年一一月までの間の各月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(2) 金一六八万二五〇〇円及び内各金三三万六五〇〇円に対する平成九年一二月から平成一〇年四月までの間の各月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(3) 金四〇三万八〇〇〇円及び内各金三三万六五〇〇円に対する平成一〇年五月から平成一一年四月までの間の各月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(一一)  金二〇九万七〇〇〇円及び内各金三四万九五〇〇円に対する平成一一年五月から平成一一年一〇月までの間の各月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(一二)  平成一一年一一月から本判決確定の日まで毎月二五日限り各金三四万九五〇〇円

四  原告らのその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、原告甲野太郎と被告との間では原告甲野太郎に生じた費用の二〇分の一九を被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告乙川次郎と被告との間では原告乙川次郎に生じた費用の五〇分の四九を被告の負担とし、その余は各自の負担とする。

六  この判決は、第二項(一)から(六)まで、(七)の(1)及び(3)並びに(一〇)並びに第三項(一)から(八)まで、(九)の(1)、(一〇)の(2)並びに(一二)に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告甲野太郎に対し、次の各金員を支払え。

(一) 二一六四万九八四〇円並びに内金四三七万〇九四〇円に対する平成七年(一九九五年)一月二六日から、内金二三万円に対する同年二月二六日から、内金二三万円に対する同年三月二六日から、内金二三万円に対する同年四月二六日から、内金三〇万八二〇〇円に対する同年五月二六日から、内金三〇万八二〇〇円に対する同年六月二六日から、内金三〇万八二〇〇円に対する同年七月二六日から、内金三〇万八二〇〇円に対する同年八月二六日から、内金三〇万八二〇〇円に対する同年九月二六日から、内金三〇万八二〇〇円に対する同年一〇月二六日から、内金三〇万八二〇〇円に対する同年一一月二六日から、内金三〇万八二〇〇円に対する同年一二月二六日から、内金三〇万八二〇〇円に対する平成八年(一九九六年)一月二六日から、内金三〇万八二〇〇円に対する同年二月二六日から、内金三〇万八二〇〇円に対する同年三月二六日から、内金三〇万八二〇〇円に対する同年四月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年五月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年六月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年七月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年八月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年九月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年一〇月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年一一月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年一二月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する平成九年(一九九七年)一月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年二月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年三月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年四月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年五月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年六月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年七月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年八月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年九月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年一〇月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年一一月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年一二月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する平成一〇年(一九九八年)一月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年二月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年三月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年四月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年五月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年六月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年七月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年八月二六日から、内金三一万七五〇〇円に対する同年九月二六日から、内金三六万二〇〇〇円に対する同年一〇月二六日から、内金三六万二〇〇〇円に対する同年一一月二六日から、内金三六万二〇〇〇円に対する同年一二月二六日から、内金三六万二〇〇〇円に対する平成一一年(一九九九年)一月二六日から、内金三六万二〇〇〇円に対する同年二月二六日から、内金三六万二〇〇〇円に対する同年三月二六日から、内金三六万二〇〇〇円に対する同年四月二六日から、内金三八万三〇〇〇円に対する同年五月二六日から、内金三八万三〇〇〇円に対する同年六月二六日から、内金三八万三〇〇〇円に対する同年七月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(二) 平成一一年(一九九九年)八月から毎月二五日限り各三八万三〇〇〇円

2  被告は、原告乙川次郎に対し、次の各金員を支払え。

(一) 一九一一万六三六〇円並びに内金二四六万九九六〇円に対する平成七年(一九九五年)一月二六日から、内金一八万〇五〇〇円に対する同年二月二六日から、内金一八万〇五〇〇円に対する同年三月二六日から、内金一八万〇五〇〇円に対する同年四月二六日から、内金二五万五七〇〇円に対する同年五月二六日から、内金二五万五七〇〇円に対する同年六月二六日から、内金二五万五七〇〇円に対する同年七月二六日から、内金二五万五七〇〇円に対する同年八月二六日から、内金二五万五七〇〇円に対する同年九月二六日から、内金二八万二七〇〇円に対する同年一〇月二六日から、内金二八万二七〇〇円に対する同年一一月二六日から、内金二八万二七〇〇円に対する同年一二月二六日から、内金二八万二七〇〇円に対する平成八年(一九九六年)一月二六日から、内金二八万二七〇〇円に対する同年二月二六日から、内金二八万二七〇〇円に対する同年三月二六日から、内金二八万二七〇〇円に対する同年四月二六日から、内金三〇万六五〇〇円に対する同年五月二六日から、内金三〇万六五〇〇円に対する同年六月二六日から、内金三〇万六五〇〇円に対する同年七月二六日から、内金三〇万六五〇〇円に対する同年八月二六日から、内金三〇万六五〇〇円に対する同年九月二六日から、内金三〇万六五〇〇円に対する同年一〇月二六日から、内金三一万四〇〇〇円に対する同年一一月二六日から、内金三一万四〇〇〇円に対する同年一二月二六日から、内金三一万四〇〇〇円に対する平成九年(一九九七年)一月二六日から、内金三一万四〇〇〇円に対する同年二月二六日から、内金三一万四〇〇〇円に対する同年三月二六日から、内金三一万四〇〇〇円に対する同年四月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する同年五月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する同年六月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する同年七月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する同年八月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する同年九月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する同年一〇月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する同年一一月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する同年一二月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する平成一〇年(一九九八年)一月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する同年二月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する同年三月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する同年四月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する同年五月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する同年六月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する同年七月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する同年八月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する同年九月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する同年一〇月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する同年一一月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する同年一二月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する平成一一年(一九九九年)一月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する同年二月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する同年三月二六日から、内金三三万六五〇〇円に対する同年四月二六日から、内金三四万九五〇〇円に対する同年五月二六日から、内金三四万九五〇〇円に対する同年六月二六日から、内金三四万九五〇〇円に対する同年七月二六日から各支払済みまで年六分の割合による金員

(二) 平成一一年(一九九九年)八月から毎月二五日限り各三四万九五〇〇円

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第1項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱の宣言

第二  事案の概要

本件は、証券会社である被告に雇用され、営業社員として勤務している原告らが、被告は、年功を加味した職能資格制度を取りながら、原告らの成績不良を理由に原告らの資格を降格してこれに対応する職能給の号俸を引き下げ、又は資格の引き下げを伴わずに職能給の号俸を引き下げ、若しくは諸手当を減額したほか、経営上の必要性を理由に職能給及び諸手当を減額したが、これらの措置は法的根拠に基づかない一方的な措置であるとして減額分の給与の支払を請求する事案である(被告は、毎年五月に作成する給与システムにおいて社員の資格とこれに対応する職能給の号俸及び諸手当の基準を定め、人事考課、査定に基づき、各社員を右の資格と職能給の号俸に当てはめ、これにより、具体的な賃金額を決定する変動賃金制(能力評価制)を採っており、降格、減給も当然予定されており、これに基づいて原告らを格付けした等と主張して抗争する。)。

以下原告甲野太郎を「原告甲野」といい、原告乙川次郎を「原告乙川」という。

一  争いのない事実等(争いのない事実のほか、証拠により認定した事実を含む。認定の根拠とした証拠は各項の末尾に挙示する。就業規則等の内容を引用するときは原則として原文のままとしたので、一部、用語に不統一が生じている場合がある。)

1  被告

被告は、肩書地に本店を置く昭和二四年五月三一日に設立された証券会社で、昭和六三年五月に岡徳証券株式会社から現商号に変更し、資本金二六億一九八四万三七五〇円、従業員数(専任社員を含み、歩合外務員、パート、アルバイトを除く。)が平成三年三月期三七三人、平成一〇年八月の時点で一三二人であり、現在東京及び名古屋の各証券取引所に加入している。

(乙第九一号証)

2  被告の営業の担い手(外務員)

被告の営業は営業員の活動によって成り立っている。被告の営業員は営業所内にとどまらず、顧客先において証券取引の勧誘をしたり、証券や金銭の受渡しに従事している。証券取引法は、証券会社が、その役員又は使用人のうち、その営業所以外の場所でその証券会社のために有価証券の売買の勧誘又は有価証券市場における有価証券の売買取引等の委託の勧誘等の行為を行う者(外務員)に所定の登録を受けなければならないこととし、証券会社が所定の登録を受けた者以外の者に外務員の職務を行わせてはならないこととしており(証券取引法六二条一項、二項)、被告の営業員は原則としてこの外務員に当たる。

被告の営業員(外務員)には、社員である営業員のほか、独立した営業主体である歩合外務員、専任社員がいる。歩合外交員には獲得した手数料の四〇パーセントが支払われるだけで、賞与も退職金も支給されない。営業に要する経費や交通費等もすべて本人負担である。所得税法上も独立した事業主体として取り扱われる。被告は、平成四年に専任社員制度を導入した。専任社員には、給与として手数料の三五パーセントが支払われるが、うち二〇万円までは固定給として保障される。固定給部分は給与所得として源泉徴収の対象となるが、その余の歩合給部分は事業所得とされ、確定申告が必要である。若干の退職金が支給されるが、賞与はなく、通勤定期代は被告が支給するが、営業に必要な費用は原則として本人負担である。社員である営業員が専任社員に転換する場合には、営業員当時の顧客、預り資金をそのまま付け、転勤がなく、希望する店舗で営業を行うことができることとされている。

(乙第五三号証から第五七号証まで、第八七号証、弁論の全趣旨)

3  原被告間の雇用契約

原告甲野は、平成元年一二月に被告に入社した営業員であり、証券会社の営業員歴二五年の経験を有し、被告入社前は丸三証券株式会社市場課長であった。

原告乙川は、昭和六二年四月に被告に入社した営業員であり、証券会社の営業員歴一五年の経験を有し、昭和六一年四月に東和証券株式会社を退職した際は課長代理であった。

4  原告らの格付けと給与

(一) 原告甲野の格付け

原告甲野は、平成四年四月時点で課長二の資格を付与され、六級一一号俸の給与を支給されることとされ、職能給三一万九五〇〇円、役付手当一一万円、住宅手当八万一〇〇〇円、営業手当六万円及び調整給二万九五〇〇円、以上合計金六〇万円の月額給与の支給を受けていた。

(二) 原告乙川の格付け

原告乙川は、平成四年四月時点で課長一の資格を付与され、六級七号俸の給与を支給されることとされ、職能給三〇万八五〇〇円、役付手当九万五〇〇〇円、住宅手当八万一〇〇〇円及び営業手当六万円、以上合計金五四万四五〇〇円の月額給与の支給を受けていた。

5  原告らの給与の減額

被告は、別紙1のとおり、原告らの給与をそれぞれ減額した(住宅手当は増額されたことがある。)。

6  原告らの労働組合加入

原告らは平成六年一〇月一九日に全労連・全国一般東京地方本部証券関連労働組合アーク証券分会(以下「組合」という。)を結成し、現にその組合員である。

二  争点

(争点摘示の前提となる給与減額の態様の整理)

1 原告甲野関係

平成四年五月に職能給の号俸が引き下げられて職能給が減額され、平成六年五月に資格の引下げに伴い職能給の号俸が引き下げられて職能給及び資格に対応する諸手当が減額され、平成六年一〇月に職能給の号俸が引き下げられて職能給が減額されるとともに査定により諸手当の減額もされ、平成七年五月に資格の引下げに伴い職能給の号俸が引き下げられて職能給及び資格に対応する諸手当が減額され、平成八年五月に職能給の号俸が引き下げられて職能給が減額され、平成一〇年一〇月に資格の引下げに伴い職能給の号俸が引き下げられ、平成一一年五月に職能給の号俸が引き下げられて職能給が減額された。

2 原告乙川関係

平成四年五月に職能給の号俸が引き下げられて職能給が減額され、平成六年五月に資格の引下げに伴い職能給の号俸が引き下げられて職能給及び資格に対応する諸手当が減額され、平成六年一〇月に職能給の号俸が引き下げられて職能給が減額されるとともに査定により諸手当の減額もされ、平成七年五月に資格の引下げに伴い職能給の号俸が引き下げられて職能給及び資格に対応する諸手当が減額され、平成七年一〇月に職能給の号俸が引き下げられて職能給が減額され、平成八年五月に資格の引下げに伴い職能給の号俸が引き下げられ職能給が減額され、平成八年一一月に住宅手当が減額され、平成九年五月に住宅手当が支給されなくなり、平成一一年五月に職能給の号俸が引き下げられて職能給が減額された。

3 原告ら共通(その1)

被告は、平成四年から平成八年までの毎年五月に給与システムを改定して諸手当を減額した。

4 原告ら共通(その2)

(一) 平成四年一一月から四箇月間の四パーセントの削減

(二) 平成五年三月の八パーセントの削減

(三) 平成五年一一月から六箇月間の五パーセントの削減

(争点)

1 給与減額の態様から見た争点

(一) 被告が、人事考課、実績査定により原告らを降格してこれに対応する職能給の号俸を引き下げ、又は降格を伴わずに職能給の号俸を引き下げ、若しくは手当を減額した措置(降格に伴って職能給の号俸が引き下げられ、これに対応して諸手当が減額となり、又は職能給の号俸の引き下げ若しくは手当の減額により給与合計額が減額となる。)の法的根拠(二の1及び2)

(二) 被告が被告の業績等を考慮して給与システムを改定して諸手当を減額した措置の法的根拠(二の3)

(三) 被告が取締役及び課長以上の給与を一律カットした措置の法的根拠(二の4)

2 具体的な立証命題としての争点

(一) 旧就業規則による変動賃金制(能力評価制)(1の(一)及び(二))

(1) 平成六年一一月一日の給与規定八条の新設ないし改定以前の旧就業規則は、被告が毎年五月に作成する給与システムにおいて、社員の賃金合計額が減額されることになるような場合を含めて、基準となる社員の資格とこれに対応する職能給の号俸及び諸手当の具体的金額を定め、かつ、人事考課、査定に基づき、降格又は職能給の号俸の引下げ若しくは手当の減額の場合を含めて、各社員を右の資格と職能給の号俸に当てはめてその社員の具体的な賃金額を決定する変動賃金制(能力評価制)を既に規定していたか否か。被告は、この旧就業規則の定める賃金体系(以下「本件変動賃金制(能力評価制)」という。)に基づき、原告らを右により定められる資格と職能給の号俸に当てはめ、これにより、具体的な賃金額を決定したものであるか否か。

(2) 本件変動賃金制(能力評価制)を定めていた旧就業規則の有効性、合理性

ア 本件変動賃金制(能力評価制)が就業規則の賃金明示の原則に反するか否か。

イ 本件変動賃金制(能力評価制)が賃金全額払の原則に反するか否か。

ウ 最高裁判所の判例にいう当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するといえるか否か。

(二) 新就業規則による変動賃金制(能力評価制)(平成六年一一月一日以後の1の(一)及び(二))

(1) 平成六年一一月一日の給与規定八条の新設ないし改定による新就業規則は本件変動賃金制(能力評価制)を規定しているか。

(2) 就業規則の変更の合理性

ア 変更の不利益性

イ 変更の必要性

ウ 変更の合理性

(三) 労使慣行(1の(一)及び(二))

被告においては、毎年、給与システムによって、前年度の業績により職能給及び諸手当の具体的な金額が決定され、成果配分主義・能力主義の見地から人事考課、査定により社員の資格並びに職能給の号俸及び手当の金額が決定されてきていたか。このようにして毎年社員の給与額が決定されることを内容とする労使慣行の存否。

(四) 合意(1の(一))

被告と各原告とは、それぞれ、被告が成果配分主義・能力主義の見地から人事考課、査定により原告らの資格並びに職能給の号俸及び手当の金額を決定すること(資格も年収も変動するものであること)を内容とする合意をしたか否か。

(五) 黙示の承諾(1の(一)及び(二))

平成四年五月に人事考課、査定により原告らの職能給の号俸が引き下げられて職能給が減額され、平成四年五月及び平成五年五月に給与システムの改定により諸手当が減額されたことについて、原告らが同意し、又は黙示に承諾していたものというべきであるか否か。

(六) 同意(1の(三))

課長以上管理職の給与を一律カットすることについて、原告らが同意したか否か。

(七) 被告が平成四年から平成八年までの毎年五月に諸手当を減額したことが本件就業規則の不利益変更に当たるとすれば、その変更の合理性(1の(二))

(八) 被告が課長以上の管理職の給与を一律カットしたことが本件就業規則の不利益変更に当たるとすれば、その変更の合理性(1の(三))

(九) 原告らによる賃金の減額部分についての支払請求と権利の濫用、信義則違反

(一〇) 被告が執った前記各措置と事情変更の原則の法理の適用

第三  当事者の主張(請求原因等)

一  請求の原因

1  原告らと被告との間の雇用契約

争いのない事実等3のとおり。

2  被告の職能資格制度と賃金制度(職能給制度)

(一) 平成六年一一月一日の給与規定八条の新設ないし改定以前の旧就業規則は、「社員の給与については、別に定める給与システムによる。」と規定し(三六条)、被告は、給与システムにおいて、職掌と対応する職級を定め、職級について号俸を定め、基本給と加給とから成る職能給を定め、職能資格制度及び職能給制度を定めていた。

(二) 職能資格制度は、一般には、「一般職能」、「中間職能」、「管理・専門職能」等に職務を分類した上で、それぞれの職能ごとに資格及び等級を設定し、労働者の職務遂行能力に対する考課(能力考課)によって資格を付与し、労働者がその能力発揮のためにどの程度行動したか、企業目的をどの程度達成したかについての考課(情意考課、成績考課)によって資格の上昇(昇格)を決定し、基本給の全部又は相当部分がこれらの資格と級に応じて定められる(職能給制度)。すなわち、職能資格制度は、労働者の職務遂行能力の到達水準を認定し、これに応じた処遇を行う制度であるから、資格や等級を引き下げて賃金を減額することを可能とする制度ではない。

(三) 旧就業規則は賃金体系に関して前記のとおり規定しているだけであり、社員の降格又は職能給の号俸の引き下げ若しくは諸手当の減額を根拠付ける規定は何もなかった。したがって、被告は、旧就業規則当時、(二)にいう職能資格制度を採っていたのであるから、労働者の同意がない限り、賃金を一方的に減額することは許されない。

(四)(1) 被告は、平成六年四月一日に就業規則を改定し、八条において「社員に別に定める職能資格を付与する。」、「職能資格規定は別に定める。」と規定し、三六条において「社員の給与については、別に定める給与規定による。」と規定している。給与規定は、給与について、基準内給与と基準外給与とを区分し、前者については、職能給を基本給とし、その他役付手当、営業管理手当、事務管理手当、営業手当、株式手当、債券手当、証券レディー手当、運転手手当、住宅手当及び赴任者手当を設け(二条)、さらに、「職能給(基本給)は、職能資格(職級)別号俸制(別に定める給与システム参照)とし、職能資格に基づき決定する。」と規定している(七条)。したがって、被告は職能資格制度を採っている。

(2) もっとも、平成六年一一月一日に給与規定八条が新設ないし改定され、同条は、「昇減給は社員の人物、能力、成績等を勘案して、第二条に定める基準内給与の各種類について、年一回ないし二回これを行う。但し事情によりこれを行なわないことがある。なお、人事考課を行なうにあたっては、「経営方針」に示されるセールス(標準)表の各項目や、随時発表される営業方針の各項目や内容及び会社への貢献度その他を総合的に勘案(役職別評価)し、厳正に行なうものとする。」と規定している。しかしながら、同条はあいまい、かつ、不明確な規定であり、同条を根拠に被告の一方的判断で賃金を減額することは許されない。

3  原告らの格付けと給与

争いのない事実等4のとおり。

4  原告らの給与の減額

争いのない事実等5のとおり。

5  よって、原告らは、被告に対し、請求の趣旨のとおり未払賃金及び遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1(一)及び(二)の事実は認める。

2(一)  同2(一)の事実は認めるが、被告の賃金制度は旧就業規則の下で既に後記の変動賃金制(能力評価制)であった。

(二)  (二)の事実は争う。

(三)  (三)のうち、旧就業規則が賃金体系に関して前記のとおり規定しているだけであり、社員の降格又は職能給の号俸の引き下げ若しくは諸手当の減額を根拠付ける明文の規定がなかったことは認めるが、被告が旧就業規則当時(二)にいう職能資格制度を採っていたことは否認し、被告が労働者の同意がない限り、賃金を一方的に減額することが許されないことは争う。

(四)  (四)(1)の事実は認め、(2)は争う。

被告は、平成六年四月一日の就業規則の変更以前から、旧就業規則に基づき、被告が毎年五月に作成する給与システムにおいて社員の資格とこれに対応する職能給の号俸及び諸手当の基準を定め、人事考課、査定に基づき、各社員を右の資格と職能給の号俸に当てはめ、これにより、給与の具体的な金額を決定する本件変動賃金制(能力評価制)を採っていた。被告は、この旧就業規則の定める本件変動賃金制(能力評価制)に基づき、原告らを右の資格と職能給の号俸に当てはめ、これにより、給与の具体的な金額を決定した。この点に関する被告の主張の詳細は、第四において述べるとおりである。

3  同3の事実は認める。

4  同4の事実は認める。

5  同5は争う。

第四  当事者の主張(争点に関する主張)

一  旧就業規則による変動賃金制(能力評価制)

1  旧就業規則と本件変動賃金制(能力評価制)

(被告の主張)

被告は、既に昭和五一年以前から本件変動賃金制(能力評価制)の運用を行っていた。旧就業規則は、「社員の給与については、別に定める給与システムによる」と規定していた(三六条)。給与システムは、被告が従前から毎年五月に作成してきているものであり、職能を表わした「職」ごとに何段階かの号俸を定め、これに相応する職能給(基本給)と各種の手当(付加的給与及び基準外給付)を定めるものである。その上で、被告は、原則として毎年五月に一定の基準による評価に基づき、各従業員を一定の「職」の一定の号俸に該当するものとして判定し、これを各従業員に告知し、これに相応する職能給と各種の手当を支払ってきている。したがって、旧就業規則は、被告が毎年五月に作成する給与システムにおいて、社員の賃金合計額が減額されることになるような場合を含めて、基準となる社員の資格とこれに対応する職能給の号俸及び諸手当の具体的金額を定め、かつ、人事考課、査定に基づき、降格又は職能給の号俸の引下げ若しくは手当の減額の場合を含めて、各社員を右の資格と職能給の号俸に当てはめてその社員の具体的な賃金額を決定する変動賃金制(能力評価制)を既に規定していた。

本件変動賃金制(能力評価制)による従業員の賃金の改定には、①給与システムにおいて定める職能給と各種手当の額の改定(以下これを「給与システムの見直しによる改定」という。)と、②特定の従業員につき給与システムに定められている「職」と号俸のいずれに該当するかの判定の変更(以下これを「個人評価の見直しによる改定」という。)とがある。

原告らの職能給の減額は、②によって行われたものである。

(原告らの主張)

否認し、争う。

2  本件変動賃金制(能力評価制)を定めていた就業規則の有効性、合理性

(被告の主張)

本件変動賃金制(能力評価制)には合理性がある。

(原告らの主張)

争う。

二  新就業規則による変動賃金制(能力評価制)

1  平成六年一一月一日の給与規定八条の新設ないし改定による新就業規則と本件変動賃金制(能力評価制)

(被告の主張)

被告は、平成六年一一月一日の給与規定八条の新設ないし改定により本件変動賃金制(能力評価制)を導入した。

(原告らの主張)

否認し、争う

2  就業規則の変更の合理性

(一) 変更の不利益性

(二) 変更の必要性

(三) 変更の合理性

(被告の主張)

(1) 被告の財務状況の悪化

バブル崩壊後の証券業界の不況の中で、次のとおり、被告の受入れ手数料、殊に株式売買委託手数料が激減し、営業収益及び経常利益が悪化する等、被告の財務状況は悪化した。

ア 受入れ手数料の推移

(受入れ手数料)(株式売買委託手数料)

平成三年三月期

六九億二六〇〇万円

六三億五二〇〇万円

平成四年三月期

三二億六六〇〇万円

二八億七七〇〇万円

平成五年三月期

二一億一七〇〇万円

一七億九一〇〇万円

平成六年三月期

三四億二四〇〇万円

二九億四二〇〇万円

平成七年三月期

二四億七六〇〇万円

二〇億〇六〇〇万円

平成八年三月期

二八億三五〇〇万円

二四億二八〇〇万円

平成九年三月期

二八億一一〇〇万円

二三億六一〇〇万円

平成一〇年三月期

一八億九五〇〇万円

一六億四二〇〇万円

イ 営業収益及び経常利益の推移

(営業収益) (経常利益)

平成三年三月期

一一五億〇四〇〇万円

一〇億九三〇〇万円

平成四年三月期

五五億五五〇〇万円

▲一九億六九〇〇万円

平成五年三月期

三一億六一〇〇万円

▲一九億六五〇〇万円

平成六年三月期

四六億九五〇〇万円

二億二七〇〇万円

平成七年三月期

三一億八一〇〇万円

▲六億四八〇〇万円

平成八年三月期

三五億四二〇〇万円 五二〇〇万円

平成九年三月期

四三億八〇〇〇万円

六億八九〇〇万円

平成一〇年三月期

三二億八九〇〇万円 ▲七三〇〇万円

ウ 純財産額の推移

(純財産額)

平成三年三月期 一二九億八六〇〇万円

平成四年三月期 一一〇億七三〇〇万円

平成五年三月期 九四億六三〇〇万円

平成六年三月期  九四億七〇〇〇万円

平成七年三月期  八四億三七〇〇万円

平成八年三月期  八四億三二〇〇万円

平成九年三月期  八六億九七〇〇万円

平成一〇年三月期  九七億二五〇〇万円

エ 販売費・一般管理費

平成三年三月期における被告の販売費・一般管理費は六八億五〇〇〇万円であり、そのうち従業員給与は二一億二四〇〇万円であった。

オ 自己資本リスク比率(自己資本規制比率)の推移

大蔵大臣は、証券会社の財産の状況が所定の基準に該当する場合(「資本、準備金その他の総理府令・大蔵省令で定めるものの額の合計額から固定資産その他の総理府令・大蔵省令で定めるものの額の合計額を控除した額が、保有する有価証券の価格の変動その他の理由により発生し得る危険に相当する額として総理府令・大蔵省令で定めるものの合計額を下回り、又は下回るおそれがある場合として総理府令・大蔵省令で定める場合」であり、自己資本リスク比率が一二〇パーセントを下回る場合、又はこれを下回るおそれがある場合である。)において、公益又は投資家保護のため必要かつ適当であると認めるときは、業務の方法の変更を命じ、三月以内の期間を定めて業務の全部又は一部の停止を命じ、財産の供託その他監督上必要な事項を命ずることができるものとされている(証券取引法五四条二項一号)。証券会社の自己資本規制に関する省令(平成四年七月一七日大蔵省令六七号)は、自己資本、控除すべき固定資産等、リスク相当額、市場リスク相当額、取引先リスク相当額、基礎的リスク相当額等について定めるとともに、証券取引法五四条二項一号に規定する下回るおそれがある場合について、固定化されていない自己資本の額がリスク相当額の一二〇パーセント相当額以下となった場合と規定している(一〇条)。さらに、「証券会社の自己資本規制について」(平成四年七月二〇日蔵証九四七号大蔵省証券局長通達)は、証券会社の自己資本規制に関する省令一〇条で規定する固定化されていない自己資本の額をリスク相当額で除した額に一〇〇を乗じたもの(自己資本規制比率)が一二〇パーセントを超える場合であっても、一五〇パーセント以下となっている証券会社については、各財務局長において、その原因や改善見込みについて把握しておくとともに、自己資本規制比率の推移について注視することとしている。

被告は、平成四年三月期には、自己資本規制比率が168.5パーセントに下落するまでに財務状況が悪化し、監督官庁から注視を受ける直前にまで達していた。その後自己資本規制比率の計算方法が変更されたので、危機的状態を脱したかの観があるが、業績不振が続いて純財産額が減少し、平成三年三月期と比較して63.9パーセント、平成四年三月期と比較しても76.2パーセントに下落している。

(2) 財務状況改善のための施策

被告は、財務状況の改善のため、諸施策の一環として人員削減、人件費の削減に努めた。

ア 営業店舗の統廃合

営業店舗一八店舗のうち、現在までに八店舗を減らした。

イ 人員減

社員数がピーク時四七九名から現在一六〇名となった。具体的には新卒者の採用を大幅に抑える方法によったが、一方で証券不況のため退職していく者が相当いたことから、大幅な人員減となっている。被告は、この間、希望退職者の募集や整理解雇は行っていない。

ウ 給与の一律カット及び諸手当の引き下げ

エ 専任社員制度の導入

被告は、平成四年から専任社員制度を導入し、本人の同意の下で一般セールスから専任社員に転向してもらった。

オ その他

被告は、そのほか、業務縮小、会社資産の売却その他の経費削減を行った。

(四) 変更の合理性

(被告の主張)

被告は、本件就業規則の変更に際し、従業員の過半数から選出された代表者である脇田圭一の同意を得て本件就業規則の変更を行った。この代表者選出手続には何ら問題がなかった。また、脇田圭一は当時課長代理一であり、管理職ではなく、所有・賃借不動産の圧縮等の資産関係業務を行っていたから、使用者の利益代表ではなく、従業員代表としての適格性にも問題はない。本件就業規則の変更は多数従業員の意向を反映したものであるから、その合理性は推測されるべきである。

三  黙示の承諾

原告らは、平成六年一〇月に組合を結成して、同年五月の賃金変更につき異議を唱えるまでの間は、特に異議等を申し立てず、各査定時期には自己申告書を被告に提出するなど現状を肯定して、従前どおりの就業を続けていたのであるから、少なくとも平成四年五月及び平成五年五月の賃金変更については、原告らは、黙示の承諾をしていたものというべきである。

(原告らの主張)

被告の主張は否認する。

四  労使慣行

(被告の主張)

被告においては、原告らの入社以前から、毎年、給与システムによって、前年度の業績により職能給及び諸手当の具体的な金額が決定され、成果配分主義・能力主義の見地から人事考課、査定により従業員の資格並びに職能給の号俸及び手当の金額が決定されてきており、このようにして毎年従業員の給与額が決定されることを内容とする労使慣行が存した。

実際に、原告らの入社以前から、毎年一回の給与システムの改定によって職能給及び諸手当の具体的な金額が決定され、その内容は、会議や放送を通じ、あるいは各部署に配布され、従業員にすべて周知させてきている。各従業員は、給与システムの各改定に基づいて算定された給与を何らの異議又は留保なく受領し、各改定及び給与額の決定に同意している。したがって、右の労使慣行が成立していたことは明らかである。

(原告らの主張)

被告の主張は否認する。そのような労使慣行は存在していなかった。被告が本件の各減額措置を執るまで、賃金が下がるなどといったことは全くといってよいほどなかった。

五  合意

(被告の主張)

被告は、原告らが証券業の経験のある中途採用であることから、原告らに対し、面接時に、被告においては給与決定の基本方針として能力主義、成果配分主義が採られていること、前年度の実績が重視され、それによって給与が改定されること、中途採用者はプロの営業マンであり、自分の給与は自ら稼ぎ出すこと、原則として自分で開拓した顧客に対して営業を行うものとし、被告の既存の顧客を付けないこと、手数料や預かり資産を多く獲得する者は年収も多く、それに見合った資格を与えること、社員の年収は手数料のほぼ二〇パーセントから二五パーセントになることを説明し、原告らも了解済みである。

このことは次の事実によっても裏付けられている。すなわち、原告らは証券業の経験のある中途採用であることから、年収額は当初の面談の中で本人らのいう実績を考慮して定められたが、その際、その年収額は当初一年間のものであり、二年目からは営業実績によって再評価され、その結果によって資格も年収も変動するものであることが確認されている。被告は、原告らの入社以前からセールスマニュアルにおいてセールスランクを設定し、各セールスランクの目標としての手数料、預かり資産等を設定し、年収等の基準を設けているから、原告らの採用当時の面談においても、このことを踏まえて右のとおり被告の給与体系が成果配分主義・能力主義を採っていることが説明された。また、証券業界においては、歩合外務員の報酬は手数料の三五パーセントないし四〇パーセントとされるが、社員である営業員については、営業に要する経費をすべて会社が負担し、退職金の支払も予定されているところから、支払われる給与額(年収額)の手数料額に対する比率は歩合外務員の場合よりも低く、手数料額の二〇パーセントないし二五パーセント以下となっているのが通例である。原告らは被告に対して原則として毎年自己申告書を提出していたが、原告らが自己申告書に記載した希望年収額は手数料額の二五パーセント以下の金額であったし、これら希望年収額は入社時の給与額に固定ないし漸増した金額ではなく、自己申告手数料と相当程度比例して増減している金額であった。原告らは証券業界の前記通例を十分承知していたと見ることができる。

よって、被告は、各原告との間で、それぞれ、被告が具体的な賃金額の確定を毎年の人事考課、査定により決定することを内容とする合意をした。

(原告らの主張)

被告の主張は否認する。原告らは、面接時にそのような説明を受けていないし、ましてや了解していない。そのような説明を受けたなら、原告らは被告に入社するはずがない。

六  同意(1の(三))

(被告の主張)

被告の代表取締役安藤龍彦は、日頃全社的なことは放送で全社員に対し、直接通知、伝達、指示等を行っている。これは、名古屋本店、東京本部、全国一二の支店に放送され、全社員が同時に聞けるようになっている。①から③までの減額(減俸)は、いずれも役員会で決定され、被告の代表取締役が放送した。いずれも営業成績が悪化し、危機的状況にあるところから、課長以上の管理職及び役員の奮起を促すため、行われたものである。役員が直接の部課長に協力を求め、減俸が実施されたが、全員異議なくこれに応じた。役員については、それ以外の者よりもより大きな減額(減俸)が実施された。

(原告らの主張)

右一律カットについて従業員全員の同意があったことは否認する。原告らは異議申立てをした。また、異議申立てがないことだけで同意があるとすることはできない。

労働者の同意があっても、賃金のカットは賃金全額支払の原則に反する。

七  平成四年から平成八年までの毎年五月に諸手当を減額したことが就業規則の不利益変更に当たるとすれば、その変更の合理性

(被告の主張)

諸手当は付加的給付であり、被告の合理的な裁量によって減額することができる。

被告が毎年給与システムを改定して諸手当の額を変更するのは、営業奨励金の支給を含む賃金体系全体の中で職能給や諸手当の額を見直した結果に過ぎないから、諸手当の減額措置は一概に従業員に対する不利益な措置ということはできない。仮に、不利益性があるとしても、被告は諸手当を減額する一方で営業奨励金(営業員に対し、前月の手数料収入その他の営業実績を基準として支給するもの)を支給しており(乙第四五号証)、成績優秀者には固定給に上乗せして月額一〇万円ないし二〇万円の営業奨励金を支給しているから、男性の営業員一人当たりの平均年収は、平成二年三月期とそれ以後とでほとんど減少しておらず、むしろ微増している。この営業奨励金の支給は代償措置に当たり、かような変更は合理性がある。

(原告らの主張)

争う。

八  課長以上管理職の給与を一律カットしたことが就業規則の不利益変更に当たるとすれば、その変更の合理性

(被告の主張)

課長以上管理職の給与を一律カットしたことについて、仮に不同意の者が存在し、その者との関係で就業規則の一方的不利益変更に当たるとしても、被告は、前記のとおり経営が危機的状況に陥ったために数々のリストラ策を実施しており、さらに強力なリストラ策を採らざるを得なくなった際に、これを避けるために一時的に行ったものに過ぎず、この就業規則の一方的不利益変更には合理性がある。

(原告らの主張)

諸手当も賃金の一部であり、その内に占める割合も大きいのに、被告は大幅な減額をしており、付加的給付であることを理由にして合法化することはできない。

被告は、就業規則の不利益変更の要件となる、高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであることを根拠付けるに足りる事実の主張をしておらず、主張自体失当である。

九  原告らによる賃金の減額部分の支払請求と権利の濫用、信義則違反

(被告の主張)

原告らの営業成績は、平成四年以降低下の一途をたどっている。原告らの給与の減額は、各原告の営業成績の劣悪さを給与面に反映させた結果に過ぎず、被告の恣意的な意思は全く介在していない。原告らよりも成績が下位の者のほとんどは依願退職あるいは自ら専任社員へ転向していったことにかんがみて、被告は、原告らの解雇を真剣に検討してきたが、原告らの生活を考慮して解雇を猶予してきた。原告らは、解雇されないことを奇貨として、本件請求をしているものであり、権利の濫用に該当し、又は信義則に反する。

(原告らの主張)

被告の主張は、労働基準法が賃金全額支払の原則等を定めて労働者の生活基盤である賃金の支払を確保しようとしていることに真っ向から反するものであり、失当である。

原告らは、被告によって預かり資産を奪われたのであり、被告の嫌がらせと不当労働行為こそ問題とされなければならない。

被告の従業員で依願退職し、あるいは専任社員へ転向していった者は、それを強要されたからである。原告らが、その強要に応じず、組合を結成したため、被告は、様々な嫌がらせと不当労働行為を行い、原告らの賃金を恣意的に減額したのであり、経営権を濫用したものというべきである。

一〇  被告が執った前記各措置と事情変更の原則の法理

(被告の主張)

期間の定めのない労働契約は、継続的な契約関係であるから、契約の基礎となった事実に変化があり、既存の労働条件のままで契約を存続させることが不公正、不合理になった場合には、使用者は、労働者に対して新しい労働条件を提示して変更を申し込むとともに、その承諾を得られないことを条件として当該労働契約を解約する意思表示をすることができるものと解するのが相当である。このような変更解約告知の法理に照らしても、労働者の極端な成績不良の場合には、使用者は、給与の減額措置を執ることができるものと解すべきである。

(原告らの主張)

我が国では整理解雇の要件、就業規則の一方的不利益変更の要件に関する判例法理が存するのであり、これと抵触する変更解約告知の法理を認めることはできない。また、本件は変更解約告知の法理の妥当する場合でもない。事情変更の原則の法理に関する被告の主張は、その前提となる議論が成り立たないから、理由がない。

一一  時効の援用

(原告らの主張)

次の経過に照らせば、時機に後れた攻撃防御方法であるにとどまらず、時効の援用権の濫用であり、信義則に違反する。

すなわち、原告らは、平成四年五月の賃金の減額以来直属の上司に対して一貫して異議を述べてきた。原告らは、被告に対し、平成六年一〇月に組合結成通知をして異議を述べ、労使自治による解決を求めてきた。しかし、被告は誠意ある対応をしなかった。そこで、原告らは本件訴訟を提起した。

第五  当裁判所の判断

一  将来の未払賃金支払請求に係る訴えの適法性について

将来の給付を求める訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り、提起することができる(民事訴訟法一三五条)。既に権利発生の基礎をなす事実関係及び法律関係が存在し、ただこれに基づく具体的な給付義務の成立が将来における一定の時期の到来や債権者において立証を必要としないか又は容易に立証し得る別の一定の事実の発生にかかっているにすぎない期限付債権や条件付債権のほか、将来発生すべき債権についても、その基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し、その継続が予測されるとともに、右債権の発生・消滅及びその内容につき債務者に有利な将来における事情の変動があらかじめ明確に予測し得る事由に限られ、しかもこれについて請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ強制執行を阻止し得るという負担を債務者に課しても、当事者間の公平を害することがなく、格別不当とはいえない場合には、これにつき将来の給付の訴えを提起することができるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和五六年一二月一六日大法廷判決民集三五巻一〇号一三六九頁、最高裁判所昭和六三年三月三一日第一小法廷判決判例時報一二七七号一二二頁、判例タイムズ六六八号一三一頁)。本件では、現在の法律関係を前提とする限り、未払賃金支払請求を(一部)認容する判決が確定すれば、被告が本判決の趣旨に従い賃金を支払うことが確実であると期待できるから、本判決確定の日の翌日以降の賃金請求まで認容することは原告らにとってはそこまでの必要がなく、被告にとっては請求異議の訴えを提起しなければ強制執行を阻止し得ないという過大な負担を課されるものというべきである。したがって、本判決確定の日の翌日以降の賃金請求に係る訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合の要件を欠くものというべきである。

よって、原告らの請求中右の部分に係る訴えは、不適法として却下する。

二  旧就業規則下における賃金体系について(一般的な職能資格制度に基づく職能給制度か変動賃金制(能力評価制)か)

1  乙第三号証から第七号証まで、第二八号証から第三〇号証まで、第八七号証(後記採用しない部分を除く。)、第八八号証(旧就業規則)、証人小川和良の証言(平成一〇年一〇月一六日付け証人調書二項。後記採用しない部分を除く。)によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 旧就業規則(乙第八八号証)は、昭和四一年六月一日から実施され、「社員の給与については、別に定める給与システムによる。」と規定していた(三六条)。被告は、この規定を受けて給与システムを定め、職能資格制度についても給与システムにおいて定めていた。すなわち、被告は、職能資格制度を採っていたが、その法的根拠は給与システムの規定にあり、給与システムにおいて、事務補助、一般事務、ボンドレディ(後に証券レディと名称を改めた。)及び女性専門職、一般、主任、代理、課長、次長、部長の各職掌とこれらに対応する職級を定め、各職級について各号俸を定め、基本給と加給とから成る職能給を定めていた。被告は、毎年五月に給与システムにおける職能給の金額を改定していた。給与システムは、社長が事前に部店長会議の席上及び朝の全店放送で改定骨子を説明し、改定の都度各部店長から従業員に説明するとともに、各部署に二冊ずつ備え付け、従業員に周知していた。

(乙第三号証から第七号証まで、第二八号証から第三〇号証まで、第八七号証(後記採用しない部分を除く。)、第八八号証)

(二) 旧就業規則下における各年度の給与システムでは、次のように定められていた(判断に必要な部分に限る。)。

(1) 昭和六一年五月作成の給与システム(乙第二七号証)

「給与システム及び奨励金の改訂」と題する書面の一枚目に給与テーブルにつき平均一万二二三二円、5.26パーセントアップ、社長賞は一部変更、手数料奨励金は二パーセントを一パーセントに変更、投信奨励金は全部変更、預かり資産奨励金を新設、債券奨励金は廃止、営業手当は営業奨励金(手数料奨励金と投信奨励金の合計)の下支えとする、だぶっては支給しない、賞与の評価ポイントとして昭和六一年六月は預かり資産増、新規開拓面に重点をおいて評価する、同年一二月は全項目を評価し、毎月の給与支給額を勘案して査定する等の記載がある。

職能給表では、事務補助、一般事務を職級1―Aとし、ボンドレディを職級1―Bとし、一般事務を職級2とし、上級係員及び主任を職級3とし、課長代理及び課長を職級4とし、次長を職級5とし、部長を職級6とし、これらの職級について各号俸を定めている。一般事務については、標準年齢が一号俸につき一八歳、四号俸につき一九歳、七号俸につき二〇歳、一〇号俸につき二一歳、一三号俸につき二二歳とされ、三号俸ごとに標準年齢が一歳上がることとされていて、以下も同様にされている。上級係員及び主任については一号俸の標準年齢が二二歳とされ、以下右と同様に三号俸ごとに標準年齢が一歳上がることとされている。代理については一号俸の標準年齢が三〇歳とされ、右と同様に三号俸ごとに標準年齢が一歳上がることとされている。課長代理及び課長については一号俸の標準年齢が三〇歳とされ、右と同様に三号俸ごとに標準年齢が一歳上がることとされている。次長については一号俸の標準年齢が四〇歳とされ、右と同様に三号俸ごとに標準年齢が一歳上がることとされている。部長については一号俸の標準年齢が四五歳とされ、右と同様に三号俸ごとに標準年齢が一歳上がることとされている。

モデル給与表では、職級の一般につき学歴と年齢に対応した職能給の金額、主任一、主任二、代理一、代理二、課長一、課長二、次長一、次長二、部長一につきそれぞれ対応する年齢と職能給及び諸手当の金額並びにその合計額のほか、前年度と比較してのアップ額が記載されている。

(2) 昭和六二年五月作成の給与システム(乙第二八号証)

一六〇名の現行給与総額三八〇五万八〇〇〇円を新システムによる試算で給与総額四〇三八万七〇〇〇円とする。差引アップ額は二三二万九〇〇〇円、アップ率は6.1パーセント、一人当たりのアップ額は一万四五五五円となる。今回の基準ベースアップ率(定昇込み)は、一般クラスが5.6パーセント、主任及び代理クラスが4.2パーセント並びに次長及び課長クラスが3.1パーセントである。

昭和六一年一〇月から昭和六二年三月までの間に支給された営業・社長賞及び奨励金の月平均支給額は五四〇万一〇〇〇円であったが、新給与システムへの移行に伴い、社長賞、株式奨励金、投信奨励金、預り資産奨励金、手数料新記録賞、三日間キャンペーン及びボンドレディ奨励金はすべて中止することとされている。

モデル給与は職能給(基本給+加給)+諸手当。加給は二万五〇〇〇円。

役付手当は、部長二の役付手当が新設されて一九万円とされ、部長一の役付手当が一七万円(前年度と比較して一万円増)、次長二の役付手当が一四万五〇〇〇円(前年度と比較して八〇〇〇円増)、次長一の役付手当が一三万三〇〇〇円(前年度と比較して七〇〇〇円増)、課長二の役付手当が一二万円(前年度と比較して五〇〇〇円増)、課長一の役付手当が一一万円(前年度と比較して五〇〇〇円増)、代理二の役付手当が八万円(前年度と比較して五〇〇〇円増)、代理一の役付手当が七万円(前年度と比較して五〇〇〇円増)、主任二の役付手当が四万五〇〇〇円(前年度と比較して二〇〇〇円増)、主任一の役付手当が三万円(前年度と同額)である。

営業管理手当は、部長A及び部長Bの営業管理手当が新設されてそれぞれ一三万五〇〇〇円及び一二万円とされ、部長Cの営業管理手当が一〇万五〇〇〇円(前年度と比較して二万五〇〇〇円増)とされ、店長クラスA及びBの営業管理手当が新設されてそれぞれ一二万円及び一〇万五〇〇〇円とされ、店長クラスCの営業管理手当が九万円(前年度と比較して二万円増)とされ、次席者A及びBの営業管理手当が新設されてそれぞれ八万五〇〇〇円及び七万円とされ、次席者Cの営業管理手当が五万七〇〇〇円(前年度と比較して一万五〇〇〇円増)とされた。

事務管理手当は、小グループリーダーに支給され、部長・次長の事務管理手当が八万円(前年度と比較して一万円増)とされ、次長・課長が六万五〇〇〇円(前年度と比較して五〇〇〇円増)とされ、課長・代理の事務管理手当が新設されて五万五〇〇〇円である。

営業手当は、六箇月間の営業実績に勤務評価を加味してセールスランクを決定する(本部長協議)。営業手当1は一〇万円で、部長及び次長のaランクの者に支給され、営業手当2は八万五〇〇〇円で、部長及び次長のbランクの者並びに課長のaランクの者に支給され、営業手当3は七万円で、部長及び次長のcランクの者、課長のbランクの者並びに代理のaランクの者に支給され、営業手当4は五万七〇〇〇円で、次長のdランクの者、課長のcランクの者、代理のbランクの者及び主任のaランクの者に支給され、営業手当5は四万五〇〇〇円で、課長のdランクの者、代理のcランクの者、主任のbランクの者及び一般のaランクの者に支給され、営業手当6は三万三〇〇〇円で、代理のdランクの者、主任のcランクの者及び一般のbランクの者に支給され、営業手当7は二万円で、主任のdランクの者及び一般のcランクの者に支給される。

株式部手当及び債券商品本部手当は営業手当に準ずる。

職能給表(基本給+加給)では、事務補助、一般事務を職級1とし、ボンドレディ及び女性専門職を職級2とし、一般を職級3とし、主任を職級4とし、代理を職級5とし、課長を職級6とし、次長を職級7とし、部長を職級8とし、これらの職級について各号俸を定めている。一般については、標準年齢が一号俸につき一八歳、四号俸につき一九歳、七号俸につき二〇歳、一〇号俸につき二一歳、一三号俸につき二二歳、一六号俸につき二三歳、一九号俸につき二四歳、二二号俸につき二五歳、二五号俸につき二六歳とされ、三号俸ごとに標準年齢が一歳上がることとされていて、以下も同様とされている。主任については一号俸の標準年齢が二六歳とされ、以下右と同様に三号俸ごとに標準年齢が一歳上がることとされている。代理については一号俸の標準年齢が三〇歳とされ、右と同様に三号俸ごとに標準年齢が一歳上がることとされている。課長については一号俸の標準年齢が三五歳とされ、右と同様に三号俸ごとに標準年齢が一歳上がることとされている。次長については一号俸の標準年齢が四〇歳とされ、右と同様に三号俸ごとに標準年齢が一歳上がることとされている。部長については一号俸の標準年齢が四五歳とされ、右と同様に三号俸ごとに標準年齢が一歳上がることとされている。

モデル給与表では、職級の一般につき学歴と年齢に対応した職能給の金額、主任一、主任二、代理一、代理二、課長一、課長二、次長一、次長二、部長一につきそれぞれ対応する年齢と職能給及び諸手当の金額並びにその合計額のほか、前年度と比較してのアップ額及びアップ率が記載されている。

(3) 昭和六三年五月作成の給与システム(乙第二九号証)

二一九名の現給与総額五一二四万一〇〇〇円を新給与総額五四六六万三〇〇〇円とする。差引アップ額は三四二万二〇〇〇円、アップ率は6.7パーセント、一人当たりのアップ額は一万五六二六円となる。今回の基準ベースアップ率(定昇込み)は、一般クラスが6.8パーセント、主任及び代理クラスが6.9パーセント並びに部課長及び次長クラスが6.4パーセントである。

モデル給与は職能給(基本給+加給)+諸手当。加給は二万円。

役付手当は、部長二の役付手当が二〇万五〇〇〇円(前年度と比較して一万五〇〇〇円増)、部長一の役付手当が一八万円(前年度と比較して一万円増)、次長二の役付手当が一五万五〇〇〇円(前年度と比較して一万円増)、次長一の役付手当が一四万二〇〇〇円(前年度と比較して九〇〇〇円増)、課長二の役付手当が一二万九〇〇〇円(前年度と比較して九〇〇〇円増)、課長一の役付手当が一一万六〇〇〇円(前年度と比較して六〇〇〇円増)、代理二の役付手当が八万六〇〇〇円(前年度と比較して六〇〇〇円増)、代理一の役付手当が七万三〇〇〇円(前年度と比較して三〇〇〇円増)、主任二の役付手当が四万八〇〇〇円(前年度と比較して三〇〇〇円増)、主任一の役付手当が三万円(前年度と同額)である。

営業管理手当は、部長Aランクの営業管理手当が一四万五〇〇〇円(前年度と比較して一万円増)、部長Bランクの営業管理手当が一三万円(前年度と比較して一万円増)、部長Cランクの営業管理手当が一一万五〇〇〇円(前年度と比較して一万円増)、店長Aランクの営業管理手当が一三万円(前年度と比較して一万円増)、店長Bランクの営業管理手当が一一万五〇〇〇円(前年度と比較して一万円増)、店長Cランクの営業管理手当が一〇万円(前年度と比較して一万円増)、次席者Aランクの営業管理手当が九万五〇〇〇円(前年度と比較して一万円増)、次席者Bランクの営業管理手当が八万円、次席者Cランクの営業管理手当が六万五〇〇〇円(前年度と比較して八〇〇〇円増)とされた。

六箇月間の営業実績に勤務評価を加味して、ランクを見直すものとする。なお、査定期間は四月から九月、一〇月から翌年三月の各六箇月とし、支給開始は、一一月、五月とする。

事務管理手当は、「部長、次長」ランクの事務管理手当が八万五〇〇〇円(前年度と比較して五〇〇〇円増)とされ、「次長、課長」ランクの事務管理手当が七万円(前年度と比較して五〇〇〇円増)とされ、「課長、代理」ランクの事務管理手当が六万円(前年度と比較して五〇〇〇円増)である。

事務管理手当の見直しは、営業管理手当に準ずる。

営業手当は、次のとおりである。営業手当1は一一万円(前年度と比較して一万円増)で、部長及び次長のaランクの者に支給され、営業手当2は九万五〇〇〇円(前年度と比較して一万円増)で、部長及び次長のbランクの者並びに課長のaランクの者に支給され、営業手当3は八万円(前年度と比較して一万円増)で、部長及び次長のcランクの者、課長のbランクの者並びに代理のaランクの者に支給され、営業手当4は六万五〇〇〇円(前年度と比較して八〇〇〇円増)で、次長のdランクの者、課長のcランクの者、代理のbランクの者及び主任のaランクの者に支給され、営業手当5は五万円(前年度と比較して五〇〇〇円増)で、課長のdランクの者、代理のcランクの者、主任のbランクの者及び新人・一般のaランクの者に支給され、営業手当6は三万五〇〇〇円(前年度と比較して二〇〇〇円増)で、代理のdランクの者、主任のcランクの者及び新人・一般のbランクの者に支給され、営業手当7は二万円で、主任のdランクの者及び新人・一般のcランクの者に支給される。

営業手当の見直しは、営業管理手当又は営業手当に準ずる。

株式部手当及び債券商品本部手当は営業手当に準ずる。

職能給表(基本給+加給)は、各号俸の金額が増額されているほかは、昭和六二年五月作成の給与システム(乙第二八号証)と基本的に同様である。

モデル給与表は、金額が増額されているほかは、昭和六二年五月作成の給与システム(乙第二八号証)と基本的に同様である。

(4) 平成元年五月作成の給与システム(乙第三〇号証)

二六八名の現給与総額六五二九万円を新給与総額七一七五万円とする。差引アップ額は六四六万円、アップ率は9.89パーセント、一人当たりのアップ額は二万四一〇六円となる。今回の基準ベースアップ率(定昇込み)は、一般クラスが8.3パーセント、主任及び代理クラスが11.4パーセント並びに部課長及び次長クラスが八パーセントである。

モデル給与は職能給(基本給)+諸手当。

役付手当は、部長二の役付手当が二〇万七〇〇〇円(前年度と比較して二〇〇〇円増)、部長一の役付手当が一八万二〇〇〇円(前年度と比較して二〇〇〇円増)、次長二の役付手当が一五万七〇〇〇円(前年度と比較して二〇〇〇円増)、次長一の役付手当が一四万四〇〇〇円(前年度と比較して二〇〇〇円増)、課長二の役付手当が一三万一〇〇〇円(前年度と比較して二〇〇〇円増)、課長一の役付手当が一一万八〇〇〇円(前年度と比較して二〇〇〇円増)、代理二の役付手当が八万八〇〇〇円(前年度と比較して二〇〇〇円増)、代理一の役付手当が七万五〇〇〇円(前年度と比較して二〇〇〇円増)、主任二の役付手当が四万八〇〇〇円(前年度と同額)、主任一の役付手当が三万円(前年度と同額)である。

営業管理手当、事務管理手当及び営業手当は、ランク分け及び各ランクの手当の金額とも前年度と同じである。六箇月間の営業実績に勤務評価を加味して、ランクを見直すものとし、査定期間は四月から九月、一〇月から翌年三月の各六箇月とし、支給開始は、一一月、五月とすることも前年度と同じである。

株式部手当及び債券商品本部手当は営業手当に準ずる。

平成元年五月作成の給与システムについての被告の説明は次のとおりである。

平成元年五月作成の給与システムでは、抜本的改善までには至らないが、ベースアップ額(定期昇給を含む。)は職能給(基本給)に最重点配分(九〇パーセント以上)し、手当への配分は調整加算程度にとどめた。

職能給を四五歳まで直線的に上昇させた。この結果、次長クラスへの職能給配分額比率は従来に比し高まった(部長クラスにも波及した)。

三職級(一般男子)から七職級(次長クラス)の各職級につき五〇歳をもって号俸設定をやめた(三職級九七号俸どまり、四職級七三号俸どまり、五職級六一号俸どまり、六職級四六号俸どまり、七職級三一号俸どまり)。

号俸リード者に対する号俸査定調整を行った。

役付手当は代理以上に対し各二〇〇〇円の増額とした。

営業手当は、従来の四段階評価方式を三段階評価方式に改めた。この結果、主任から次長クラスについては、従来のc(標準者)が各b(改訂後の標準成績者)へと改訂された。新人・一般については、従来のaを削除し、二段階評価方式に改め、bを改訂後の標準成績者として扱うこととした。なお、部長クラスは従来どおりとした。

職能給表(基本給+加給)は、各号俸の金額が増額されているほかは、昭和六二年五月作成の給与システム(乙第二八号証)及び昭和六三年五月作成の給与システム(乙第二九号証)と基本的に同様であるが、右に述べたとおり、三職級(一般男子)から七職級(次長クラス)の各職級につき五〇歳をもって号俸設定をやめている(三職級九七号俸どまり、四職級七三号俸どまり、五職級六一号俸どまり、六職級四六号俸どまり、七職級三一号俸どまり)。

モデル給与表は、金額が増額されているほかは、昭和六二年五月作成の給与システム(乙第二八号証)及び昭和六三年五月作成の給与システム(乙第二九号証)と基本的に同様である。

(5) 平成二年五月作成の給与システム(乙第三号証)

三〇二名の現給与総額八四四四万九〇〇〇円を新給与総額九二一八万八〇〇〇円とする。差引アップ額は七七三万九〇〇〇円、アップ率は9.16パーセント、一人当たりのアップ額は二万五六二五円となる。今回の基準ベースアップ率(定昇込み)は、一般クラスが8.4パーセント、代理及び主任クラスが12.3パーセント並びに部長、次長及び課長クラスが七パーセントである。

モデル給与は職能給(基本給)+諸手当。

役付手当は部長二が二〇万七〇〇〇円、部長一が一八万二〇〇〇円、次長二が一五万七〇〇〇円、次長一が一四万四〇〇〇円、課長二が一三万一〇〇〇円、課長一が一一万八〇〇〇円、代理二が八万八〇〇〇円、代理一が七万五〇〇〇円、主任二が四万八〇〇〇円、主任一が三万円である。前年度と同額である。

営業管理手当は、部長・店長Aが一一万五〇〇〇円、部長・店長Bが一〇万円、次席者が七万五〇〇〇円である。格付け、金額とも改訂された。部長・店長については、査定によりA格かB格かを決定する。当査定は必要の都度行う。

事務管理手当は、部長が八万五〇〇〇円、次長・課長が七万円、課長・代理が六万円である。前年度と同額である。課長については、査定により決定する。当査定は必要の都度行う。

営業手当は、部長が九万五〇〇〇円、次長が八万円、課長が六万五〇〇〇円、代理が五万円、主任が四万円、一般の上級が三万円及び初級が二万円である。営業手当は役付により一本化し、以後は賞与にて評価する。「一般」については、査定により上級か又は初級かを決定する。当査定は必要の都度行う。

株式手当は、部長が八万円、次長が六万五〇〇〇円、課長が五万円、代理が四万円、主任が三万円、一般の上級及び初級が各二万円である。この年度は特別に、課長二は次長扱いとする。

債券手当は株式手当に準ずる。

職能給表(基本給+加給)は、各号俸の金額が増額されているほかは、平成元年五月作成の給与システム(乙第三〇号証)と基本的に同様である(ボンドレディは証券レディと改められた。)。標準ペースを基準にして、標準比較の見直しを随時行うこととされている。

モデル給与表は、金額が増額されているほかは、昭和六二年五月作成の給与システム(乙第二八号証)、昭和六三年五月作成の給与システム(乙第二九号証)及び平成元年五月作成の給与システム(乙第三〇号証)と基本的に同様である。

(6) 平成三年五月作成の給与システム(乙第四号証)

三六一名の現給与総額一億〇二九四万六〇〇〇円を新給与総額一億〇六九〇万二〇〇〇円とする。差引アップ額は三九五万六〇〇〇円、アップ率は3.84パーセント、一人当たりのアップ額は一万〇九五九円となる。今回の基準ベースアップ率(定昇込み)は、一般クラスが5.65パーセント、代理及び主任クラスが4.21パーセント並びに部長、次長及び課長クラスが0.86パーセントである。

モデル給与は職能給(基本給)+諸手当。

役付手当は部長二が一七万円(前年度と比較して三万七〇〇〇円減)、部長一が一五万円(前年度と比較して三万二〇〇〇円減)、次長二が一三万円(前年度と比較して二万七〇〇〇円減)、次長一が一二万円(前年度と比較して二万四〇〇〇円減)、課長二が一一万円(前年度と比較して二万一〇〇〇円減)、課長一が九万五〇〇〇円(前年度と比較して二万三〇〇〇円減)、代理二が七万五〇〇〇円(前年度と比較して一万三〇〇〇円減)、代理一が六万円(前年度と比較して一万五〇〇〇円減)、主任二が四万円(前年度と比較して八〇〇〇円減)、主任一が二万五〇〇〇円(前年度と比較して五〇〇〇円減)である。従来の役付手当の一部を職能給に組み入れたため、右の金額となった。

営業管理手当は、部長・店長Aが一一万円(前年度と比較して五〇〇〇円減)、部長・店長Bが九万五〇〇〇円(前年度と比較して五〇〇〇円減)、次席者が七万円(前年度と比較して五〇〇〇円減)である。部長及び店長については、査定によりA格かB格かを決定する。当査定は必要の都度行う。

事務管理手当は、部長が八万円(前年度と比較して五〇〇〇円減)、次長・課長が六万五〇〇〇円(前年度と比較して五〇〇〇円減)、課長・代理が五万五〇〇〇円(前年度と比較して五〇〇〇円減)である。課長については、査定により決定する。当査定は必要の都度行う。株式部の課長については、一年間の特例措置として、株式手当に代えて事務管理手当を六万円支給する。

営業手当は、部長が八万円(前年度と比較して一万五〇〇〇円減)、次長が七万円(前年度と比較して一万円減)、課長が六万円(前年度と比較して五〇〇〇円減)、代理が五万円(前年度と増減なし)、主任が四万円(前年度と増減なし)、一般の上級が三万円(前年度と増減なし)及び初級が二万円(前年度と増減なし)である。「一般」については、査定により上級か又は初級かを決定する。当査定は必要の都度行う。

株式手当は、部長が七万円(前年度と比較して一万円減)、次長が六万円(前年度と比較して五〇〇〇円減)、課長が五万円(前年度と増減なし)、代理が四万円(前年度と増減なし)、主任が三万円(前年度と増減なし)、一般が二万円(前年度と増減なし)である。

債券手当は株式手当に準ずる。

職能給表(基本給+加給)は、各号俸の金額が増減されているほかは、平成元年五月作成の給与システム(乙第三〇号証)及び平成二年五月作成の給与システム(乙第三号証)と基本的に同様である。部長二については査定により決定する。

モデル給与表は、昭和六二年五月作成の給与システム(乙第二八号証)、昭和六三年五月作成の給与システム(乙第二九号証)、平成元年五月作成の給与システム(乙第三〇号証)及び平成二年五月作成の給与システム(乙第三号証)と基本的に同様である。標準年齢に対応する給与額は、職能給、役付手当、営業管理手当又は事務管理手当及び住宅手当の合計額として算出されている。役付手当、営業管理手当又は事務管理手当が前記のとおり減額されているものの、職能給が増額されているので、標準年齢三五歳及び三六歳に対応する六職級(課長)一号俸から六号俸までの支給を受ける社員の給与額が前年度よりも若干減額となっているだけであり、標準年齢に対応する給与額は、前年度に比べ、おおむね増額されている。

(7) 平成四年五月作成の給与システム(乙第五号証)

従前の給与システムと異なり、給与総額の記載はない。

モデル給与は職能給(基本給)+諸手当。

役付手当は部長二が一四万五〇〇〇円(前年度と比較して二万五〇〇〇円減)、部長一が一三万円(前年度と比較して二万円減)、次長二が一一万五〇〇〇円(前年度と比較して一万五〇〇〇円減)、次長一が一〇万五〇〇〇円(前年度と比較して一万五〇〇〇円減)、課長二が九万五〇〇〇円(前年度と比較して一万五〇〇〇円減)、課長一が八万円(前年度と比較して一万五〇〇〇円減)、代理二が六万五〇〇〇円(前年度と比較して一万円減)、代理一が五万円(前年度と比較して一万円減)、主任二が三万円(前年度と比較して一万円減)、主任一が二万円(前年度と比較して五〇〇〇円減)である。

営業管理手当は、部長・店長が一律五万円(前年度と比較して部長・店長Aについては六万円減、部長・店長Bについては四万五〇〇〇円減)、次席者が三万五〇〇〇円(前年度と比較して三万五〇〇〇円減)である。

事務管理手当は、部長・次長が一律三万五〇〇〇円(前年度と比較して部長については四万五〇〇〇円減、次長については三万円減)、課長・代理が二万五〇〇〇円(前年度と比較して三万円減)である。

営業手当は、部長が三万円(前年度と比較して五万円減)、次長が三万円(前年度と比較して四万円減)、課長が三万円(前年度と比較して三万円減)、代理が三万円(前年度と比較して二万円減)、主任が二万五〇〇〇円(前年度と比較して一万五〇〇〇円減)、一般の上級が二万円(前年度と比較して一万円減)、初級一種が一万五〇〇〇円(前年度と比較して五〇〇〇円減)及び初級二種が一万円(前年度と比較して一万円減)である。「一般」については、査定により上級か又は初級かを決定する。当査定は必要の都度行う。

株式手当は、部長が三万円(前年度と比較して四万円減)、次長が三万円(前年度と比較して三万円減)、課長が二万五〇〇〇円(前年度と比較して二万五〇〇〇円減)、代理が二万五〇〇〇円(前年度と比較して一万五〇〇〇円減)、主任が二万円(前年度と比較して一万円減)、一般一種が一万五〇〇〇円(前年度と比較して五〇〇〇円減)、一般二種が一万円(前年度と比較して一万円減)である。

債券手当は株式手当に準ずる。

職能給表は、平成元年五月作成の給与システム(乙第三〇号証)、平成二年五月作成の給与システム(乙第三号証)及び平成三年五月作成の給与システム(乙第四号証)と基本的に同様であるが、課長については一号俸の標準年齢が三四歳(従前は三五歳)で四九号俸どまりとされ、次長については一号俸の標準年齢が三八歳(従前は四〇歳)で三七号俸どまりとされ、部長については一号俸の標準年齢が四三歳とされている。この改正に伴い、各号俸の金額が増額されているものの、七職級の一号俸から二二号俸までの各金額及び八職級の一号俸から一一号俸までの各金額は減額されているが、対応する標準年齢から見ると増額となっている。

モデル給与表は、右に述べた課長、次長及び部長の標準年齢の変更の点及び各金額の変更の点のほかは、平成元年五月作成の給与システム(乙第三〇号証)、平成二年五月作成の給与システム(乙第三号証)及び平成三年五月作成の給与システム(乙第四号証)と基本的に同様である。標準年齢に対応する給与額は、職能給、役付手当、営業管理手当又は事務管理手当及び住宅手当の合計額として算出されている。役付手当、営業管理手当又は事務管理手当が前記のとおり減額されており、職能給が増額されているので、標準年齢三一歳までは標準年齢に対応する給与額は、前年度に比べて増額されている。しかし、標準年齢三二歳以上に対応する給与額は前年度よりも減額となっている。また、営業手当は減額となっているので、営業手当を給与額に算入すると、営業手当の減額分だけ給与額の減額分は大きくなる。

(8) 平成五年五月作成の給与システム(乙第六号証)

平成四年五月作成の給与システムと同様、もはや給与総額の記載はない。

モデル給与は職能給(基本給)+諸手当。

役付手当は部長二が一一万五〇〇〇円(前年度と比較して三万円減)、部長一が一〇万円(前年度と比較して三万円減)、次長二が九万円(前年度と比較して二万円減)、次長一が八万円(前年度と比較して二万五〇〇〇円減)、課長二が七万円(前年度と比較して二万五〇〇〇円減)、課長一が六万円(前年度と比較して二万円減)、代理二が五万円(前年度と比較して一万五〇〇〇円減)、代理一が四万円(前年度と比較して一万円減)、主任二が二万円(前年度と比較して一万円減)、主任一が一万三〇〇〇円(前年度と比較して七〇〇〇円減)である。

営業管理手当は、部長・店長が一律五万円(前年度と増減なし)、次席者が〇円(前年度と比較して三万五〇〇〇円減)、班長が三万五〇〇〇円(前年度と比較して三万五〇〇〇円増)である。

営業管理手当については必要に応じて該当者を見直しする。

営業管理手当には営業手当を含むものとする。

事務管理手当は、部長・次長が三万五〇〇〇円(前年度と増減なし)、課長・代理が二万五〇〇〇円(前年度と増減なし)、グループリーダー(班長)二が二万円(前年度と比較して二万円増)、グループリーダー(班長)一が一万円(前年度と比較して一万円増)である。「部長・次長」と「課長・代理」とは管理職とし、グループリーダー(班長)二とグループリーダー(班長)一とは管理職に準ずるものとする。

営業手当は、部長、次長、課長、代理、主任及び一般の上級が一律二万五〇〇〇円(前年度と比較して部長、次長、課長及び代理については五〇〇〇円減、主任については増減がなく、一般の上級については五〇〇〇円増)、一般が一律一万五〇〇〇円(前年度の一般の初級一種及び初級二種の区別がなくなり、前年度と比較して初級一種は増減がなく、初級二種は五〇〇〇円増)である。

営業手当については、残業手当を含むものとする。主任・一般上級は一九時まで、一般初級は一八時まで。一般上級は二年生以上、一般初級は一年生。

株式手当は、部長、次長、課長、代理及び主任が一律二万五〇〇〇円(前年度と比較して部長及び次長については五〇〇〇円減、課長及び代理については増減がなく、主任については五〇〇〇円増)、一般が一律一万五〇〇〇円(前年度の一般の初級一種及び初級二種の区別がなくなり、前年度と比較して初級一種は増減がなく、初級二種は五〇〇〇円増)である。

債券手当は株式手当に準ずる。

職能給表は、平成元年五月作成の給与システム(乙第三〇号証)、平成二年五月作成の給与システム(乙第三号証)、平成三年五月作成の給与システム(乙第四号証)及び平成四年五月作成の給与システム(乙第五号証)と基本的に同様であるが、一般については八二号俸どまり(対応する標準年齢が四五歳)とされ、主任については一号俸の標準年齢が二五歳(従前は二六歳)で六一号俸どまり(対応する標準年齢が四五歳)とされ、代理については一号俸の標準年齢が二九歳(従前は三〇歳)で四九号俸どまり(対応する標準年齢が四五歳)とされ、課長については一号俸の標準年齢が三三歳(従前は三四歳)で四〇号俸どまり(対応する標準年齢が四六歳)とされ、次長については一号俸の標準年齢が三七歳(従前は三八歳)で三一号俸どまり(対応する標準年齢が四七歳)とされ、部長については一号俸の標準年齢が四一歳(従前は四三歳)で二五号俸どまり(対応する標準年齢が四九歳)とされている。

この改正に伴い、各号俸の金額が増額されているものの、主任(四職級)の一号俸から二〇号俸までの各金額、代理(五職級)の一号俸から二〇号俸までの各金額、課長(六職級)の一号俸から一七号俸までの各金額、次長(七職級)の一号俸から一六号俸までの各金額及び部長(八職級)の一号俸から一四号俸までの各金額は減額されているが、対応する標準年齢から見ると増額となっている。

モデル給与表は、右に述べた変更点及びその余の各金額の変更の点のほかは、平成元年五月作成の給与システム(乙第三〇号証)、平成二年五月作成の給与システム(乙第三号証)、平成三年五月作成の給与システム(乙第四号証)及び平成四年五月作成の給与システム(乙第五号証)と基本的に同様である。標準年齢に対応する給与額は、職能給、役付手当、営業管理手当又は事務管理手当及び住宅手当の合計額として算出されている。標準年齢二六歳、二八歳、三二歳、三四歳、三八歳、四〇歳、四三歳以上については、対応する給与額は前年度よりも減額となっている。それ以外の標準年齢に対応する給与額は、前年度に比べて増額されている。しかし、営業手当は標準年齢三〇歳以上の場合には減額となっているので、営業手当を給与額に算入すると、三六歳及び三九歳の給与額も減額となり、前記の各年齢の給与額についても営業手当の減額分だけ減額分は大きくなる。

(9) 平成六年五月作成の給与システム(乙第七号証)

平成四年五月作成の給与システム及び平成五年五月作成の給与システムと同様、もはや給与総額の記載はない。

役付手当は部長二が八万円(前年度と比較して三万五〇〇〇円減)、部長一が七万円(前年度と比較して三万円減)、次長二が六万円(前年度と比較して三万円減)、次長一が五万五〇〇〇円(前年度と比較して二万五〇〇〇円減)、課長二が四万五〇〇〇円(前年度と比較して二万五〇〇〇円減)、課長一が四万円(前年度と比較して二万円減)、代理二が三万円(前年度と比較して二万円減)、代理一が二万五〇〇〇円(前年度と比較して一万五〇〇〇円減)、主任二が一万三〇〇〇円(前年度と比較して七〇〇〇円減)、主任一が七〇〇〇円(前年度と比較して六〇〇〇円減)である。

営業管理手当は、部長・店長が五万円(前年度と増減なし)、次席者が三万五〇〇〇円(前年度と比較して増減なしと記載されている。ただし、前記のとおり平成五年五月作成の給与システムには次席者については〇円と記載されていたので、このとおりなら三万五〇〇〇円増となる。)、班長二が三万五〇〇〇円(前年度と比較して三万五〇〇〇円増)、班長一が二万五〇〇〇円である。

営業管理手当については必要に応じて該当者を見直しする。

営業管理手当には営業手当を含むものとする。

班長二は課長以上、班長一は課長代理以下を表わす。

事務管理手当は、部長・次長が三万五〇〇〇円(前年度と増減なし)、課長・代理が二万五〇〇〇円(前年度と増減なし)、グループリーダー(班長)二が二万円(前年度と増減なし)、グループリーダー(班長)一が一万円(前年度と増減なし)である。

事務管理手当は必要に応じて該当者を見直しする。

「部長・次長」と「課長・代理」とは管理職とし、グループリーダー(班長)二とグループリーダー(班長)一とは管理職に準ずるものとする。

営業手当は、部長、次長、課長及び代理が一律二万円(前年度と比較して部長、次長及び課長については五〇〇〇円減、代理については五〇〇〇円増)、主任及び一般の上級が一律一万五〇〇〇円(前年度と比較して増減なしと記載されているが、平成五年五月時点と比べると一万円減となる。)、一般初級が一律一万五〇〇〇円(前年度と比較して増減なし)である。

営業手当については、残業手当を含むものとする。代理、主任、一般上級は一九時まで、一般初級は一八時まで。一般上級は二年生以上、一般初級は一年生。

株式・債券手当は、部長、次長、課長及び代理が一律二万円(前年度と比較して部長、次長及び課長については五〇〇〇円減、代理については五〇〇〇円増)、主任及び一般が一律一万五〇〇〇円(前年度と比較して、主任については増減なしと記載されているが、平成五年五月時点と比べると一万円減となる。一般については増減なし)である。

株式・債券手当については、残業手当を含むものとする。代理、主任は一九時まで、一般は一八時まで。

職能給表は、平成五年五月作成の給与システム(乙第六号証)と基本的に同様であるが、部長については一号俸の標準年齢が四〇歳(前年度は四一歳)で二八号俸どまり(対応する標準年齢が四九歳。前年度は二五号俸どまり)とされている。

この改正に伴い、各号俸の金額が増額されている。部長(八職級)の号俸は最終の二八号俸で初めて増額となるが、対応する標準年齢から見ると増額となっている。

モデル給与表は添付されていない。

(三) 右認定によれば、旧就業規則下における各年度の給与システムの内容は次のとおり要約することができる。

(1) 平成六年四月一日の就業規則の変更以前の旧就業規則の下で毎年五月に作成されていた給与システムは、その年度の職能給の各号俸及び諸手当の具体的金額を決定するものであったが、平成元年五月作成の給与システムまでは標準年齢に対応した職能給又は諸手当が減額されたことはなかった。給与システムで諸手当が減額されたのは平成二年五月作成の給与システムにおいてが初めてであるが、営業管理手当及び営業手当等の最高ランクが減額されたにとどまった。平成三年五月作成の給与システムでは役付手当、営業管理手当、事務管理手当及び営業手当が減額されたが、職能給が増額されているので、職能給、役付手当、営業管理手当又は事務管理手当及び住宅手当の合計額として算出されている標準年齢に対応する給与額で見ると、標準年齢三五歳及び三六歳に対応する六職級(課長)一号俸から六号俸までの支給を受ける社員の給与額が前年度よりも若干減額となっているだけで、標準年齢に対応する給与額は、前年度に比べ、おおむね増額されていた。しかし、営業手当も減額されており、給与額算定に当たり営業手当を給与額に算入すると、営業手当の減額分だけ給与額の減額分が加算されるので、六職級(課長)一号俸以上は給与額が減額されたことになった。もっとも、平成三年五月作成の給与システムでは給与総額は前年度に比べて三九五万六〇〇〇円増加しており、右に述べた課長以上の給与額の減額は管理職への配分を減じて社員間の所得の平準化を少し進めた観がある。次に、平成四年五月作成の給与システムでは、役付手当、営業管理手当又は事務管理手当が減額された一方で、職能給が増額されたので、標準年齢三一歳までは標準年齢に対応する給与額は、前年度に比べて増額されたが、標準年齢三二歳以上に対応する給与額は前年度よりも減額となった。また、営業手当は減額となっているので、営業手当を給与額に算入すると、営業手当の減額分だけ給与額の減額分は大きくなった。平成五年五月作成の給与システムでは、役付手当、営業管理手当又は事務管理手当が減額された一方で、職能給が増額された。標準年齢二六歳、二八歳、三二歳、三四歳、三八歳、四〇歳、四三歳以上については、対応する給与額は前年度よりも減額となっている。それ以外の標準年齢に対応する給与額は、前年度に比べて増額されている。しかし、営業手当は標準年齢三〇歳以上の場合には減額となっているので、営業手当を給与額に算入すると、三六歳及び三九歳の給与額も減額となり、前記の各年齢の給与額についても営業手当の減額分だけ減額分は大きくなる。さらに、平成六年五月作成の給与システムでは、役付手当、営業管理手当又は事務管理手当が減額された一方で、職能給が若干増額された。モデル給与表は添付されていないが、職能給の増額が若干にとどまるので、役付手当、営業管理手当、事務管理手当及び営業手当が減額されたことにより減額となったものと思われる。

(2) 旧就業規則下の給与システムは、職能給表において、事務補助・一般事務、証券レディ、一般、主任、代理、課長、次長及び部長の職級を設け、これらの職級について各号俸を定め、対応する標準年齢を設定し、三号俸ごとに標準年齢が一歳上がることとしていた。被告は、同一の職級(資格)の中では学歴、標準年齢を基準として号俸を上げていくとともに、職務遂行能力の有無を判定してこれが備わっていると判断すれば上位の職級(資格)に昇格させることとし、これらの職級(資格)と号俸によって決まる職能給を支給することとしていたが、そのほか、諸手当を支給していた。平成五年五月作成の給与システムまではモデル給与表が添付されていたが、平成六年五月作成の給与システム以後は添付されなくなった。

諸手当のうち、役付手当は、昭和六二年五月作成の給与システムから平成二年五月作成の給与システムまでは職級(資格)に応じた賃金上の処遇としての性質を有し、その金額は職能給の金額と比較しても相当の額に及んでいたが、平成三年五月作成の給与システム以来その相当部分が職能給に組み入れられるようになり、その結果役付手当の額としては大幅に減少した(このことは被告が平成三年五月作成の給与システムにおいて自ら明記していたことである。)。営業管理手当、事務管理手当及び営業手当については、昭和六二年五月作成の給与システムにおいて、営業手当が本部長協議により六箇月間の営業実績に勤務評価を加味してランクを決定することとされ、昭和六三年五月作成の給与システムにおいて、営業管理手当が六箇月間の営業実績に勤務評価を加味してランクを見直し、査定期間は四月から九月、一〇月から翌年三月の各六箇月とし、支給開始は、一一月、五月とすることとされ、事務管理手当及び営業手当がこれに準ずることとされていたように、それぞれ上位のランクと下位のランクとが設けられ、査定によりいずれのランクに該当するかを決定することとされ、当該査定が必要の都度行われることが定められていた。すなわち、被告は、右各手当について各職級ごとに標準成績者とこれに優る者及び劣る者のランクを設定し、査定によりいずれのランクに該当するかを決定することとしていた。しかしながら、右各手当についても、まず、営業手当が平成二年五月作成の給与システムにおいて役付により一本化され、以後は賞与にて評価されることが原則とされ、また、営業管理手当、事務管理手当については、平成四年五月作成の給与システムから職級別に一律の額が支給される傾向が強まり、平成五年五月作成の給与システムにおいてこのことが顕著になったし、営業管理手当には営業手当が含まれることとなった。さらに、この年度の給与システムでは一般の職級に対する営業手当が残業手当を含むことが明記された。

このように、営業管理手当、事務管理手当及び営業手当については、かつては営業実績に勤務評価を加味してランクが決定されていたが、これも各職級ごとに設定されていた標準成績者とこれに優る者及び劣る者のランクの振り分けにすぎず、営業実績や勤務評価が低い場合でも、既に到達していた職級を下げる趣旨のものではなかった。また、職能給についても、同一の職級(資格)の中では学歴、標準年齢を基準として号俸が上昇することとされ、上位の職級(資格)の職務遂行能力が備わっていると判断されれば昇格することとされていたが、このようにしていったん備わっていると判断された職務遂行能力が、営業実績や勤務評価が低い場合にこれを備えないものとして降格されることは、(心身の障害等の特別の事情がある場合は別として)給与システムにおいて何ら予定されていなかった。前記各手当は、役付手当と同様に、次第に職能給に組み込まれていくこととなったが、職能給は、こうして給与中で占める比重を増していくこととなったとはいえ、右の性格に変更を来すことはなかった。

(四) 経営方針書及びセールスマニュアルについて

被告は、毎年三月末及び九月末に経営方針と題する書面(以下「経営方針書」という。)を作成し、男性社員全員と営業職の女性に配布していた。毎年三月末に作成される経営方針書が当該期全般(四月から翌年三月まで)についてであり、九月末に作成される経営方針書が当該期下期(一〇月から翌年三月まで)についてのものであった。この経営方針書に記載されていた内容は、期によってやや異なるものの、おおむね次のとおりである。まず、キャッチフレーズ化した基本方針及びその期の経営方針が記載されていた。次に、被告全体での年間の目標額として、信用建玉の金額、預り資産の金額、東証シェアの割合、月間手数料の金額(月間損益分岐点の金額)、年間営業利益の金額、年間株式ディーラー益の金額、年間債券ディーラー益の金額、年間金融益の金額、年間経常利益の金額が掲げられていた。また、各セクション別に、当該期について、信用建玉の金額、預り資産の金額、月間新規顧客数、募集物の金額及び幹事銘柄の金額につき中途までの達成数字と目標の数字が掲げられていたほか、当該期の上期について、シェアの割合、基準手数料の金額、月間損益分岐点の金額、月間基準営業利益の金額、年間営業利益の金額及び月間基準金融収支の金額が掲げられていた。さらに、セールス(標準)として、部長、次長、課長、代理、主任一、主任二、三年生、二年生、一年生及び証券レディ別に、信用建玉の金額、預り資産の金額(預り資産目処、月間純増額)、月間新規顧客の人数、募集物の金額(月間投信、中国ファンド残)、幹事銘柄保有残(株数)、基準シェアの割合、基準手数料の金額、セールスランク及び年収目処が掲げられていた。すなわち、セールス(標準)には、おおむね職級(資格)別に右の各点についての目標数値とこれに対応する年収目処が記載されていた。しかし、これらの目標数値は、被告自身が必ずしも実現可能な数字とは考えておらず、実績を踏まえて下方へ修正が施されていた。

経営方針書において損益分岐点に言及しているのは被告全体及び各セクション別の箇所であって、セールス(標準)に掲げられているのは、あくまでも職級(資格)別の右の各点についての目標数値であり、従業員一人当たりの損益分岐点に相当する手数料の金額は何ら記載されていなかった。また、セールス(標準)をはじめ、経営方針書のどの箇所も、降格に言及していなかった。

被告は、従業員に対し、入社時及び改定時にセールスマニュアルを配布していた。昭和六三年一〇月及び平成三年一〇月改訂のセールスマニュアル(乙第三三号証の一)、平成四年六月改訂のセールスマニュアル(乙第三三号証の二)、平成五年三月改訂のセールスマニュアル(乙第三三号証の三)及び平成六年三月改訂のセールスマニュアル(乙第三三号証の四)には、社員一人当たり年間経常利益一〇〇〇万円を出すことが目標として記載され、預り資産が各部、各店の最大の経営指標であり、自分の役職、月給の指標であることが記載され、また、経営方針書のセールス(標準)と同様のセールスランクが記載されており、「どのセールスランク、いくらの年収まで自分は何年でいくか。年をとるだけでは行かない。努力だけである。」と注記されていた。また、評価欄には、部店長・セールス評価点基準が掲げられ、手数料、預り資産増、新規客、募集物、幹事銘柄増、顧客損益、人事評価、ZDの評価項目と点数が記載されていた。さらに、平成六年三月改訂のセールスマニュアル(乙第三三号証の四)には、「営業奨励金」(月間社長賞)支給基準が記載され、新規開拓、預り資産の月間純増、現物買、投信販売額、入札月間累計金額、手数料の金額に対応して営業奨励金が支給することとされた。

しかしながら、右各セールスマニュアルにおいては、従業員一人当たりの損益分岐点に相当する手数料の金額等、損益分岐点に言及している記載はなく、まして、従業員一人当たりの損益分岐点を満たすことができなかった場合その他の成績不良の場合の降格可能性に言及する箇所は全くなかった。

これに対し、本件就業規則改定後の平成六年一二月改訂のセールスマニュアル(乙第三三号証の五)からは、社員一人当たり年間経常利益一〇〇〇万円を出すことが目標として記載されるにとどまらず、「分配メドとして全店経常利益の1/3を賞与として全役職員に分配する。うち、部支店長は自己店の年間営業利益の1/10を賞与として支給する。」という記載が加わり、「営業奨励金」(月間社長賞)支給基準についても一部改定され、預り資産の月間純増及び新規開拓、手数料の金額、投信販売額(純増)、入札月間累計金額、中国ファンド(平成六年一一月のみ)に対応して営業奨励金が支給することとされ、預り資産の月間純増一〇〇〇万円以下、新規客一名以下、手数料(一般、主任)一〇〇万円以下、手数料(課長代理以上)一五〇万円以下等の場合には、減点されることが明記された。また、平成七年三月改訂のセールスマニュアル(乙第三三号証の六)からは、「中途採用、他社から転職の人は全部自分のもってきた、つくった客でやる。契約の精神(平等、互恵)営業の内容にてやる。社員の場合は、年収はほぼ手数料の二五%、専任社員は三五%、コミッションは四〇%とする。専門社員(年俸)は三〇%。」という記載が加わるに至ったほか、「営業奨励金」(月間社長賞)支給基準についても一部改定され、手数料の金額及び投信販売額に対応して営業奨励金が支給することとされ、手数料が給料の四倍以上の場合に支給されることが記載されるに至った。さらに、平成七年一〇月改訂のセールスマニュアル(乙第三三号証の七)からは、右の各記載のほか、「営業奨励金支給・ペナルティー基準」として、手数料の金額、投信販売額及び新規開拓に対応して営業奨励金が支給することとされ、手数料については給料の三倍以上の場合に支給されることが記載されたほか、ペナルティー基準として、部店長については、直接経費が赤字のときにはペナルティー二万円、手数料が給与の三倍未満の場合にはペナルティー二万円、営業職については、手数料が給与の三倍未満の場合において、営業管理手当と営業手当の合計額が二万円以上のときにはペナルティーとして七〇〇〇円を減額し、営業手当が一万五〇〇〇円のときにはペナルティーとして五〇〇〇円を減額し、営業手当が一万円のときにはペナルティーとして三〇〇〇円を減額することが記載されるに至った。平成八年三月改訂のセールスマニュアル(乙第三三号証の八)では、以上の各記載のほか、営業奨励金支給・ペナルティー基準について、次のように改められた。すなわち、営業奨励金支給については、手数料、預り資産増、新規開拓、投信販売額に対応して営業奨励金が支給することとされ、手数料については給料の三倍以上の場合に支給され、ペナルティー基準として、部店長については、直接経費が赤字のときにはペナルティー二万円、直接経費と本部経費の合計が赤字のときはペナルティー一万円、手数料が給与の三倍未満の場合にはペナルティー二万円、営業職については、手数料が給与の三倍未満の場合において、営業管理手当と営業手当の合計額が二万円以上のときにはペナルティーとして七〇〇〇円が減額され、営業手当が一万五〇〇〇円のときにはペナルティーとして五〇〇〇円が減額され、営業手当が一万円のときにはペナルティーとして三〇〇〇円が減額される。

すなわち、本件就業規則改定後のセールスマニュアルにおいては、社員の場合は、年収が手数料のほぼ二五パーセントという基準を明確に打ち出し、従業員一人当たりの損益分岐点という思想を示すに至っているし、また、中途採用、他社から転職してきた従業員については自分で開拓した顧客で営業する旨の記載がされるに至っている。しかしながら、これらの記載は、本件訴訟が提起された後に改訂されたセールスマニュアルにおいて記載されるに至ったものである。

(乙第一一号証から第一七号証まで、第三二号証の一から同号証の九まで、第三三号証の一から同号証の八まで、第八七号証)

(五) 乙第二一号証、第二三号証、第八七号証、証人小川和良の証言によれば、被告が、毎年五月に人事考課、査定を行っており、あらかじめ各従業員から目標、希望年収、会社への貢献根拠等を記入した自己申告書の提出を受け、営業実績及び人事考課表を基本にしながら、部店長、担当役員、総務部において順次検討を行い、更に全社的な調整をした上で役員会で従業員各人の職級(資格)及び職能給の号俸を決定していたことが認められる。しかし、このような人事考課、査定は、昇格、昇給の決定のために行われていたが、既に述べたとおり、いったん備わっていると判断された職務遂行能力が、営業実績や勤務評価が低い場合にこれを備えないものとして降格されることは、(心身の障害等の特別の事情がある場合は別として)給与システムにおいて何ら予定されていなかったし、営業管理手当、事務管理手当及び営業手当については、かつては営業実績に勤務評価を加味してランクが決定されていたが、これも各職級ごとに設定されていた標準成績者とこれに優る者及び劣る者のランクの振り分けにすぎず、営業実績や勤務評価が低い場合でも、既に到達していた職級を下げる趣旨のものではなかった。したがって、旧就業規則下の被告の職能資格制度は右のような降格を予定していなかったものと考えられるが、仮に被告が人事考課、査定の結果営業実績や勤務評価が低く、職務遂行能力を備えないものとして降格する運用を行っていたとすれば、右と異なる判断をする可能性があるので、次に被告の運用の実情を見ることとする。

2  被告が執った降格、減給措置について

(一) 本件就業規則改定以前

乙第八号証、第四二号証の一から同号証の三まで、同号証の五、同号証の七から同号証の一〇まで、第四三号証の一から同号証の七まで、第一〇〇号証、証人小川和良の証言(平成一〇年九月一八日付け証人調書三五項、六〇項、平成一〇年一〇月一六日付け証人調書二項)、証人島田一夫の証言(平成一〇年一二月二五日付け証人調書二五項から二七項まで、一〇一項から一一五項まで)に弁論の全趣旨を併せて考えれば、次の事実を認めることができる。

(1) 平成四年五月以前

平成四年五月以前は、病気で療養していた従業員につきその同意を得て給与を減額した者がいたが、このような例を別とすれば、成績不振を理由に降格、職能給の減額という措置が執られた者はいなかった。

もっとも、乙第一〇〇号証、第一〇四号証及び第一〇五号証の各一、二並びに証人島田一夫の証言(平成一〇年一二月二五日付け証人調書二五項から二七項まで、一〇一項から一一五項まで)によれば、平成四年五月以前にも、次のような事例があったことが認められる。

昭和五七年四月一日付けで、中途採用の営業職で課長代理一から主任一に降格された従業員(東京支店勤務の佐々木)と、同様に中途採用の営業職で次長一から課長一に降格された従業員(東京支店勤務の田中)がいた。被告の総務部が調査、作成した「平成四年度以前の降格者及び賃金推移」と題する書面(乙第一〇〇号証)には、これらの降格の理由は「営業成績不良」であると記載されている。

平成三年四月二一日付けで、中途採用の経理事務担当者で課長二から課長一に降格された従業員がいた。「平成四年度以前の降格者及び賃金推移」と題する書面(乙第一〇〇号証)には、降格の理由は「勤怠不良」であると記載されている。

同年一一月二五日付けで、中途採用の営業職で課長代理二から主任二に降格された従業員がいた。「平成四年度以前の降格者及び賃金推移」と題する書面(乙第一〇〇号証)には、降格の理由は「営業成績不良及び顧客トラブル」であると記載されている。

平成四年一月二〇日付けで、学卒採用の営業職で営業成績不良及び管理能力不良を理由に課長二から課長一に降格された従業員と、中途採用の営業事務担当者で主任一から一般に降格された従業員がいた。「平成四年度以前の降格者及び賃金推移」と題する書面(乙第一〇〇号証)には、降格の理由は「処理能力不良」であると記載されている。

しかしながら、乙第三号証、第四号証、第八七号証、第一〇〇号証、第一〇四号証及び第一〇五号証の各一、二に弁論の全趣旨を併せて考えれば、右の六事例のうち、降格に伴い職能給まで減額されたのは昭和五七年四月一日付けの二事例と平成三年四月二一日付けの事例(六職級三四号俸から六職級二八号俸に引き下げられた。なお、職能給の金額自体はかえって増額されているが、これは平成三年五月作成の給与システムの改定により役付手当の相当部分が職能給に組み入れられるようになったことによるものである。)だけであり、この三事例を含めて給与の減額の大半は諸手当の減額によるものであったこと、昭和五七年四月一日付けの二事例の該当者は昭和五八年七月及び八月にいずれも退職し、平成三年四月二一日付けの事例の該当者も平成四年一二月に退職していること、その余の三事例の該当者も降格から早期に退職していること、小川和良は昭和五一年八月から取締役経理部長兼総務部長、昭和五二年一二月から常務取締役経理部長兼総務部長及び監査部担当等、昭和六〇年一二月から専務取締役経理部長兼総務部長及び監査部担当等、平成三年四月から専務取締役、東京管理本部長、東京総務部長兼東京営業考査室長等、平成七年一月から専務取締役管理本部長、総務部長、経理部長兼監査部長等を務め(平成八年六月常勤監査役に就任)、昭和五一年八月に総務部長に就任して以来長年にわたって被告の賃金体系作成にかかわっていたこと、「平成四年度以前の降格者及び賃金推移」と題する書面(乙第一〇〇号証)は被告の総務部が調査、作成した文書であるが、その原資料は、この文書に「※総務部により、退職者名簿及び給与台帳を過去に逆上り確認して作成しています。」と注記されていることに照らし、退職者名簿及び給与台帳のほかにはないが、これらの原資料であると考えられる従業員名簿(乙第一〇四号証の一、二)にも給与台帳にも降格の理由が営業成績不良であることを裏付ける記載は何もないこと、以上の事実が認められ、これらの事実に、証人小川和良の証言(平成一〇年九月一八日付け証人調書三五項、六〇項、平成一〇年一〇月一六日付け証人調書二項)を併せて考えれば、昭和五七年四月一日付けの二事例は、「平成四年度以前の降格者及び賃金推移」と題する書面(乙第一〇〇号証)には降格の理由が「営業成績不良」であると記載されているものの、それが真実の理由であったことを裏付ける証拠はなく、病気等の特別の事情があったため、被告が従業員の同意を得て降格し、職能給を減額した例外的な場合に過ぎなかったものと認めることができる。また、他の四事例についても、降格の理由が「平成四年度以前の降格者及び賃金推移」と題する書面(乙第一〇〇号証)に記載されている前記の各理由であることを裏付ける証拠はなく、降格から早期に退職していることからすると、昭和五七年四月一日付けの二事例と同様に、病気その他の特別の事情があったため、被告が従業員の同意を得て降格し、職能給を減額した例外的な場合に過ぎなかったものと推認することができる。

また、甲第七一号証、乙第三号証、第四号証、第一〇二号証の一、二によれば、原告甲野が平成三年五月に六級三四号俸(職能給三二万三〇〇〇円)から六級一一号俸(職能給三一万九五〇〇円)に引き下げられたことが認められる(なお、原告甲野の役付手当も一三万一〇〇〇円から一一万円に減額されているが、これは、平成三年五月作成の給与システムの改定により役付手当の相当部分が職能給に組み入れられるようになったことによるものであり、原告甲野の営業手当が六万五〇〇〇円から六万円に減額されているのも平成三年五月作成の給与システムの改定によるものであって、人事考課、査定による減額とは異なる。また、原告乙川の役付手当が平成二年一〇月に一一万八〇〇〇円とされたのは、原告乙川が同月主任二から課長一に昇格し、平成二年五月作成の給与システムの定めていた課長一の役付手当一一万八〇〇〇円を支給されるようになったからであり、平成三年五月に原告乙川の役付手当が九万五〇〇〇円に減額されたのは、平成三年五月作成の給与システムの改定により役付手当の相当部分が職能給に組み入れられるようになったことによるものであり、原告乙川の営業手当が平成元年五月に六万五〇〇〇円とされたのは、平成元年五月作成の給与システムにより営業手当が三段階評価方式に改められたが、当時主任二であった原告乙川がB(改訂後の標準成績者)評価を受けたことによるものであり、平成二年五月に原告乙川の営業手当が五万円とされたのは、平成二年五月作成の給与システムにより営業手当が役付により一本化され、代理については一律五万円とされたことによるものであり、同年一〇月に原告乙川の営業手当が六万五〇〇〇円とされたのは、原告乙川が同月主任二から課長一に昇格し、平成二年五月作成の給与システムの定めていた課長の営業手当六万五〇〇〇円を支給されるようになったからであり、平成三年五月に原告乙川の営業手当が六万円とされたのは、平成三年五月作成の給与システムの改定によるものであって、以上、いずれも人事考課、査定による減額とは異なる。)。しかしながら、乙第一〇二号証の一、二によれば、通勤手当及び奨励金を別とすれば、給与の支給額は平成三年四月も同年五月も各六〇万円であり、六級三四号俸(職能給三二万三〇〇〇円)から六級一一号俸(職能給三一万九五〇〇円)に引き下げられたことによっては全く減額されていなかったことが認められるから、これが給与の減額の先例となるということはできない。

したがって、平成四年五月以前は、病気で療養していた従業員につきその同意を得て給与を減額した等の例外的な場合を別とすれば、成績不振を理由に降格、職能給の減額という措置が執られたことはなかったものというべきである。

(証人小川和良の証言(平成一〇年九月一八日付け証人調書三五項、六〇項、平成一〇年一〇月一六日付け証人調書二項))

(2) 平成四年五月

被告は、原告甲野について、六職級一一号俸から六職級一号俸に号俸を下げ、また、原告乙川について、六職級七号俸から六職級一号俸に号俸を下げた。

平成四年五月二一日付けで、常滑支店の都築勝美が次長二から次長一に、本店営業部の中野正勝が次長二から次長一に、経理部の阿部正好が次長二から課長二に、それぞれ降格された。

(乙第四二号証の一)

(3) 平成四年一〇月

平成四年一〇月一日付けで、本店営業部の青山一甫が部長一から次長一に、八事支店の飯田祐一が次長一から課長二に、経理部の竹内裕雄が次長一から課長二に、それぞれ降格された。

(乙第四二号証の二)

(4) 平成五年五月

平成五年五月二一日付けで本店営業部の青山一甫が次長一から課長一に降格された。

(乙第四二号証の三)

(5) 平成六年五月

被告は、原告甲野について、平成六年五月、課長二から課長一に役職を下げ、六職級七号俸から六職級一号俸に号俸を下げ、また、原告乙川について、課長二から課長一に役職を下げ、六職級九号俸から六職級二号俸に号俸を下げた。

半田支店の石田敏彦が次長一から課長二に、常滑支店の都築勝美が次長一から課長二に、本店営業部の中野正勝が次長一から課長二に、半田支店の鈴木昭二が課長二から課長一に、本店営業部の飯田祐一が課長二から課長一に、瀬戸支店の犬飼勇夫が次長二から課長一に、常滑支店の竹内裕雄が課長二から課長一に、それぞれ降格された。

(乙第八号証、第四二号証の五)

(6) 平成六年一〇月

平成六年一〇月一日付けで、半田支店の石田敏彦が課長二から課長一に、本店営業部の中野正勝が課長二から課長一に、常滑支店の都築勝美が課長二から課長一に、本店営業部の役田英夫が課長代理二から課長代理一に、八事支店の安井正彦が主任二から主任一に、半田支店の塚田智紀が主任二から主任一に、江南支店の鬼頭仲房が主任一から一般に、それぞれ降格された。

被告代表取締役は、平成六年一〇月五日、同年後期の人事考課の結果、降格となる者や号俸が引き下げられる者がいる旨社内放送を行った。その後、名古屋地区一六名及び東京地区二名(原告ら)の成績不良者が発表された。被告は、該当者に対し、給与が減額となるが、専任職を選択することもできる旨説明し、名古屋地区の一〇名が専任職を選択した。

(乙第四二号証の七、弁論の全趣旨)

(二) 本件就業規則改定以後

(1) 平成七年五月

平成七年五月二四日付けで江南支店の杉本雅彦が課長代理二から課長代理一に、豊田支店の深尾興慈が課長一から課長代理一に降格された。

(乙第四二号証の八)

(2) 平成七年一〇月

平成七年一〇月一日付けで、豊田支店の杉本琢司が課長代理一から主任一に降格された。

(乙第四二号証の九)

(3) 平成八年四月

平成八年四月一日付けで、覚王山支店の大野邦男が課長一から課長代理一に、瀬戸支店の杉浦和樹が課長代理一から主任二に、それぞれ降格された。

(乙第四二号証の一〇)

(三) 被告は、原告甲野について、平成四年五月、六職級一一号俸から六職級一号俸に号俸を下げ、平成六年五月、課長二から課長一に役職を下げ、六職級七号俸から六職級一号俸に号俸を下げ、また、原告乙川について、平成四年五月、六職級七号俸から六職級一号俸に号俸を下げ、平成六年五月、課長二から課長一に役職を下げ、六職級九号俸から六職級二号俸に号俸を下げたが、乙第八七号証、証人小川和良の証言によれば、これらの措置は、被告の人事考課、査定に基づいて執られたことが認められる。しかしながら、前記のとおり、平成四年五月以前は、病気で療養していた従業員につきその同意を得て給与を減額した者がいたが、このような例を別とすれば、成績不振を理由に右のような措置が執られた者はいなかった。平成四年五月以後は原告らだけでなく、前記のとおり成績不振を理由に降格された従業員がいるが、これだけでは旧就業規則下において成績不振を理由に従業員を降格する運用が確立していたものと認めるには不十分である。平成四年五月以後に被告がこのような措置を執るに至った事情としては、平成四年五月以降の被告の業績の悪化が原因であると考えられ、平成四年五月以前は証券業界の業績が右肩上がりでそのような措置を執る必要がなかったからであるといえないわけではないが、被告が執った措置が適法か否かは、右のような事情の有無によって決せられるのではなく、そのような措置を執る法的根拠の有無によるものというべきである。被告が執った措置は、旧就業規則及び給与システムに根拠を有するものということはできず、被告が法的根拠なく一方的に行ったものというほかはない。

3  1及び2の認定によれば、次のとおりである。

(一) 平成六年四月一日の就業規則の変更以前の旧就業規則の下で毎年五月に作成されていた給与システムは、その年度の職能給の各号俸及び諸手当の具体的金額を決定するものであったが、平成元年五月作成の給与システムまでは標準年齢に対応した職能給又は諸手当が減額されたことはなく、給与システムで諸手当が減額されたのは平成二年五月作成の給与システムにおいてが初めてであった。平成三年五月作成の給与システムでは、職能給が増額されているので、給与自体が減額となったのは課長以上であり、その額も限られていた。これは、管理職への配分を減じて従業員間の所得の平準化を進める趣旨であったと考えられる。被告は、この時までは職能給に重点を移す政策を採っており、諸手当を減額した分を職能給に組み入れることとしていた。平成三年五月作成の給与システムまでは、給与システムに従業員に支給する給与総額、前年度と比較しての差引アップ率、アップ額、アップ率、一人当たりのアップ額、基準ベースアップ率(定昇込み)が記載されており、毎年ベースアップが行われていたのであって、給与システムはそれを具体的に決定するものとしての意義も有していた。これに対し、平成四年五月作成の給与システム以後は諸手当が更に減額され、職能給については増額されているものの、諸手当減額の結果給与自体が減額となる従業員の範囲が広がり、給与減額が実質的なものとなった。このように、旧就業規則の下での給与システムの改定により給与が減額されることとなったのは、平成四年五月作成の給与システム、平成五年五月作成の給与システム及び平成六年五月作成の給与システムにおいてだけであり、平成四年三月の決算期に被告の財務状況が悪化して以後作成された給与システムに限られる。したがって、旧就業規則の下での賃金制度が、毎年作成の給与システムにおいて職能給の各号俸及び諸手当の具体的金額を決定するに際し、平成四年五月作成の給与システムより前から、その全部又は一部を減額することにより同一資格、同一号俸の給与合計額を減額することを許容するものであったということはできず、また、平成四年五月作成の給与システム以後給与が減額されたことだけでは被告の賃金制度が元々右のような内容のものであったというには不十分である。他に旧就業規則の下での賃金制度が右の内容のものであったことを裏付ける事実はない。乙第五八号証及び第八七号証の各記載並びに証人小川和良の証言中、旧就業規則の下での賃金制度が右の内容のものであった旨の部分はたやすく採用することができず、他に旧就業規則の下での賃金制度が右の内容のものであったことを認めるに足りる証拠はない。

(二) 平成六年四月一日の就業規則の変更以前の旧就業規則及び毎年五月に作成されていた給与システムは、他の企業で採られている一般的な職能資格制度を採っていたものであり、いったん備わっていると判断された職務遂行能力が、営業実績や勤務評価が低い場合にこれを備えないものとして降格されることは、(心身の障害等の特別の事情がある場合は別として)何ら予定されていなかったものである。また、経営方針書及びセールスマニュアルにも、右のような降格可能性を裏付ける記載はなかった。本件就業規則改定後のセールスマニュアルにおいては、社員の場合は、年収が手数料のほぼ二五パーセントという基準を明確に打ち出し、従業員一人当たりの損益分岐点という思想を示し、また、中途採用、他社から転職してきた従業員については自分で開拓した顧客で営業する旨の記載がされるに至っているが、これらのセールスマニュアルにおいてさえ、年収が手数料のほぼ二五パーセントという基準を満たせなかった場合の降格の可能性には全く言及されていない。さらに、実際に行われた人事を見ても、平成四年五月以前は、病気で療養していた従業員につきその同意を得て給与を減額した等の例外的な場合を別とすれば、成績不振を理由に降格、職能給の減額という措置が執られたことはなかったものというべきである。したがって、旧就業規則の下での賃金制度が、毎年給与システムを作成する際、被告が、各社員について、人事考課、査定に基づき、降格又は職能給の号俸の引下げ若しくは手当の減額を許容するものであったということはできず、他に旧就業規則の下での賃金制度が右の内容のものであったことを裏付ける事実はない。

乙第五八号証及び第八七号証の各記載並びに証人小川和良の証言中、旧就業規則の下での賃金制度が右の内容のものであった旨の部分はたやすく採用することができず、他に旧就業規則の下での賃金制度が右の内容のものであったことを認めるに足りる証拠はない。

(三)  したがって、旧就業規則下において本件変動賃金制(能力評価制)が採られていた事実はなく、被告の主張は理由がない。

4  労使慣行について

1から3までにおいて述べたことによれば、旧就業規則下において本件変動賃金制(能力評価制)を内容とする労使慣行が成立していたということができないことは明らかであるから、この点に関する被告の主張も理由がない。

三  合意その他の法的根拠の有無について

1  採用時における被告と各原告との合意について

(一) 甲第六号証の二、第七一号証、第七二号証、乙第二一号証、第二七号証、第三二号証の一、第三五号証の一から同号証の四まで、第三六号証の一から同号証の八まで、第三七号証から第四〇号証まで、第八二号証(後記採用しない部分を除く。)、第八三号証(後記採用しない部分を除く。)、第一〇二号証の一、二、証人島田一夫の証言(平成一〇年一〇月二五日付け証人調書五項から一七項まで、二一項、二八項から三二項まで、三四項、三六項、三九項、四四項、四五項から四八項まで、五二項から七二項まで。後記採用しない部分を除く。)、証人野口敏彦の証言(後記採用しない部分を除く。)、原告乙川次郎本人尋問の結果及び原告甲野太郎本人尋問の結果(後記採用しない部分を除く。)によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 原告乙川の採用に当たっては、被告東京支店総務課長(経理課長兼務)であった島田一夫が第一次面接担当者として採用面接を行い、原告乙川から、以前に勤務していた証券会社での営業実績、経験した業務とその内容、預かり資産の額、従前の顧客のうち被告の顧客として移すことのできる顧客の有無、手数料収入の見込み、希望年収等の各点を聴取した。原告乙川は、以前勤務していた東和証券では営業成績として月額の株式手数料収入が二〇〇万円ないし三五〇万円であり、年収が約七〇〇万円ないし八〇〇万円であったが、同社を退職後就職した会社では月収約二五万円と半減したため、もう一度証券業界で活躍したいという希望を述べたものの、年収希望に関し具体的な金額は述べなかった。原告乙川は採用面接当時三八歳であり、昭和六一年五月作成の給与システムにおいて定められたモデル給与表(乙第二七号証)によれば、年齢基準三八歳に対応する職位は課長二であり、職能給二一万四〇〇〇円(基本給一八万九〇〇〇円及び加給二万五〇〇〇円。職能給表の四職級(課長代理、課長)二五号俸に相当する。)、役付手当一一万五〇〇〇円、営業管理手当七万円及び住宅手当八万六〇〇〇円(東京地区のみ倍額とされているため。)、以上合計四八万五〇〇〇円となるが、島田一夫は、課長職のモデル給与例を算出するに当たり、職能給及び住宅手当は右のとおりとしつつ、役付手当は課長一の一〇万五〇〇〇円を適用し、営業管理手当七万円ではなく営業手当四万五〇〇〇円を加算し、モデル給与例として給与月額四五万円と算出した上で、原告乙川が述べた株式手数料収入二〇〇万円ないし三五〇万円を被告のセールス(標準)と照合した上で、原告乙川の資格及び職能給につき、モデル給与例を下回る主任1(三職級)及び職能給三五号俸と格付けし、職能給一九万七〇〇〇円(基本給一七万二〇〇〇円及び加給二万五〇〇〇円)、役付手当三万円、住宅手当五万四〇〇〇円及び営業手当二万八〇〇〇円、給与月額三〇万九〇〇〇円、賞与については六〇万円(年間一二〇万円)、年収合計四九〇万八〇〇〇円とする案を作成した。島田一夫が、右の案を記載し、被告内部での決裁用に作成した「乙川次郎氏待遇等案」と題する書面(乙第四〇号証)には、「給与、年収」の項に「年収五〇〇万位(当初)成績により昇進、昇給」と記載されているが、営業実績次第で降格、降給があることに関しては何ら記載がない。島田一夫は、原告乙川に対し、被告での営業実績がないので、実際の年齢基準、役職基準より下のランクからスタートしてもらっていると説明した。島田一夫は、原告乙川の東和証券勤務当時の営業実績、原告乙川に営業員としてのブランクがあることを考慮し、自分の設定したモデル給与例を大幅に下回る給与額を支給する案を作成したものと考えられる。その後役員面接、社長面接が行われ、社長面接の際に社長(被告代表者)が原告乙川に対して年収の希望額を尋ね、原告乙川が控え目に五〇〇万円と答えた。原告乙川は最終的に島田一夫の右原案どおりの資格及び給与で採用が決定された。原告乙川が被告に採用されるに当たって、面接等の際に、原告乙川の営業実績が悪ければ原告乙川の承諾がなくても降格、降給されることになるという話が出たことはなかった。

(2) 原告甲野は、昭和三六年から昭和四二年まで大東証券に、同年から丸三証券に勤務し、ほぼ一貫して株式部で株式情報、ディーラーの仕事をし、昭和五九年二月ころから昭和六一年ころまでの間営業に携わり、その後丸三投資顧問に出向して特定金銭信託のチーフファンドマネージャーを務めていたが、丸三証券の市場課課長を命ぜられ職務に従事していたものの、市場課課長の職務が地味であると感じて転職を考えるようになり、新聞で被告の営業社員募集広告を見て応募した。原告甲野の採用に当たっては、平成元年八月ころ野口取締役(東京株式部長)による採用面接が行われ、その後被告代表者及び野村専務による社長面接が行われた。原告甲野は、野口取締役から丸三証券での営業実績、年収及び被告での年収の希望額を尋ねられ、昭和五九年二月から東京店営業部で営業員として預かり資産一二億円、手数料収入月額三〇〇万円の実績があったこと、年収が約一〇〇〇万円であったこと、希望として、被告では地位を上げて次長とし、年収は一〇〇〇万円を超える額にしてほしいことを述べた。原告甲野は、被告東京総務部西村次長から採用通知を受けたが、その際年収九二〇万円を一年間約束すると告げられた。

原告甲野は採用面接当時四六歳であり、平成元年五月作成の給与システムにおいて定められたモデル給与表によれば、年齢基準四五歳に対応する職位が部長一であり、職能給二九万四五〇〇円(職能給表の八職級一号棒に相当する。)、役付手当一八万二〇〇〇円、営業管理手当八万五〇〇〇円及び住宅手当五万七〇〇〇円、以上合計六一万八五〇〇円となるが、被告は、これよりも低く格付けすることとした。すなわち、証拠上必ずしも明らかではないものの、被告は、原告甲野の待遇として、課長二(職級六)及び職能給三四号棒と格付けしたものであり、その結果、被告は、通勤手当等を別にすれば、職能給二八万六五〇〇円、役付手当一三万一〇〇〇円、住宅手当八万一〇〇〇円及び営業手当六万五〇〇〇円、以上合計五六万三五〇〇円を毎月支払うべきこととなるが、原告甲野との間で年収九二〇万円を保障することを約束したので、どのような名目か不明であるがこれに上乗せし、毎月六〇万円を支払うこととしたものと推認することができる(原告甲野は、平成二年五月の時点では六職級三四号棒に格付され、職能給三二万三〇〇〇円、役付手当一三万一〇〇〇円、住宅手当八万一〇〇〇円及び営業手当六万五〇〇〇円、以上合計六〇万円が毎月支給され、平成三年五月の時点では六職級一一号棒に格付され、職能給三一万九五〇〇円、役付手当一一万一〇〇〇円、住宅手当八万一〇〇〇円及び営業手当六万円、以上合計五七万〇五〇〇円のほか、どのような名目か不明であるが、二万九五〇〇円が支給され、これらの支給額合計は六〇万円であったから、これらの事実に基づいて考えると、前記のとおり推認することができる。)。

以上の事実に基づいて考えると、被告東京総務部西村次長が原告甲野に対して年収九二〇万円を一年間約束すると告げたのは、原告甲野の採用時の格付に基づく給与月額では年収九二〇万円に満たないため、年収九二〇万円となるように上乗せして支給するという特別の措置を執ることを約束したものであり、当時の状況からすると、翌年には、ベースアップ等により、このような特別措置を執らなくても当然原告甲野が年収九二〇万円を上回る給与を支給されることになるという見込みがあったために、そのような特別の措置については一年間に限って保障するという趣旨であったと解するのが相当である。

原告甲野が被告に採用されるに当たって、面接等の際に、右の特別の措置のほかには、原告甲野の営業実績が悪ければ原告甲野の承諾がなくても降格、降給されることになるという話が出たことはなかった。

(3) 乙第八二号証、第八三号証の各記載、証人島田一夫及び同野口敏彦並びに原告甲野本人の各供述中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らしてたやすく採用することができず、他に右認定に反する証拠はない。

(二) 原告乙川は昭和六二年四月に被告に入社し、当初の資格は主任一であったが、同年七月課長代理二、平成二年七月課長一、平成四年四月課長二に格付けられた。原告乙川の年収は、昭和六二年(四月から一二月まで)が三八二万円、昭和六三年(一月から一二月まで)が六八三万円、平成元年(一月から一二月まで)が八一四万円、平成二年(一月から一二月まで)が八七三万円であり、原告乙川の年収が減少するのは平成三年以降である。

原告甲野は平成元年一二月に被告に入社し、平成四年四月までは課長二の格付けを受け、月額給与六〇万円の支払を受けていた。

(三) 原告乙川は、被告に対して自己申告書を提出したが、この文書の希望年収の欄には、昭和六三年三月、平成元年三月、平成二年三月及び平成三年三月の各時点では一〇〇〇万円(月額給与五〇万円)、平成四年三月の時点では九六〇万円(月額給与六〇万円)と記載した。

原告甲野は、被告に対して自己申告書を提出したが、この文書の希望年収の欄には、平成三年三月の時点では一二四〇万円(月額給与七〇万円)、平成五年三月の時点では八六〇万円(月額給与五五万円)、平成六年三月の時点では九六〇万円(月額給与六〇万円)、平成八年三月の時点では九二〇万円(月額給与六〇万円)と記載しており、平成五年三月の時点では年収、月額給与とも入社時よりも少ない金額となっているが、原告甲野は、この自己申告書を提出する前年(平成四年)五月には六等級の一一号棒から六等級の一号棒に引き下げられていた。

(四) 被告が主張するように、被告においては給与決定の基本方針として能力主義、成果配分主義が採られ、前年度の実績によって給与が改定され、手数料や預り資産を多く挙げる者は年収も多く、それに見合った資格を与え、社員の年収は手数料のほぼ二〇から二五パーセントになることを説明し、原告らの了解済みであるとすれば、被告は、原告らが入社して一年後に、人事考課、査定により入社後の実績を踏まえて原告らの格付け及び職能給の号棒を改めてしかるべきである。この点に関し、被告は、原告らの営業成績が良好だったことはほとんどなかったと主張しているところである。しかるに、原告らの格付け及び給与については前記のとおりであり、入社して一年後には何ら降格、給与額の減額措置を受けておらず、原告甲野については平成元年一二月に被告に入社して以来平成四年四月まで、原告乙川については昭和六二年四月に被告に入社して以来平成三年まで、降格又は職能給の号棒の引下げにより給与を減額されたことはなかった。

(五) 被告は、各原告との間で、それぞれ、被告が成果配分主義・能力主義の見地から人事考課、査定により原告らの資格並びに職能給の号棒及び手当の金額を決定すること(資格も年収も変動するものであること)を内容とする合意をした旨主張するが、前記のとおり、被告は、各原告の採用に当たって年齢に対応したモデル給与例よりも相当低く格付けしており、原告甲野に関しては特別措置を一年間に限って約束したものの、その趣旨は既に述べたものにとどまったから、当事者の合意の趣旨としては、原告らが翌年以降営業実績等により昇給、昇格していくことは当然想定されていたものの、被告が主張するような降格、降給は何ら想定されていなかったものと解するのが相当である。

乙第八二号証、第八三号証の各記載、証人島田一夫及び同野口敏彦の各供述中被告の前記主張に沿う部分はたやすく採用することができず、被告の前記主張は理由がない。

(六) 原告甲野の採用に当たって、被告が年収九二〇万円を一年間に限って保障したことは既に述べたとおりである。この特別の措置は、原告甲野の採用に当たり、原告甲野と被告との間でされた給与に関する特約に当たる。被告は、原告甲野との間で、成果配分主義・能力主義の見地から人事考課、査定により原告らの資格並びに職能給の号棒及び手当の金額を決定すること(資格も年収も変動するものであること)を内容とする合意をした旨主張しており、この主張は、原告甲野に対する年収九二〇万円の給与を支払う合意が固定的、継続的なものではなく、採用から一年間経過後は被告の格付けした職級及び職能給の号棒で給与を支払うことを内容としていたという趣旨をも包含するものと解するのが相当である。

原告甲野は、平成三年五月の時点で六職級一一号棒に格付けされ、職能給三一万九五〇〇円、役付手当一一万一〇〇〇円、住宅手当八万一〇〇〇円及び営業手当六万円、以上合計五七万〇五〇〇円の支給を受けていたから、原告甲野の未払賃金請求は、これを基準として未払額を算定すべきであり、右の時点でこれらとは別に支給されていた月額二万九五〇〇円については、未払賃金の算定上考慮すべきではない。なお、被告は、平成四年四月まで特別措置を延長していたものと解されるが、原告甲野の採用から既に一年以上経過していたから、被告の判断で延長を打ち切ることは適法であると解される。

2  黙示の承諾又は同意について

労働基準法二四条一項は、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と規定し、使用者が一方的に賃金の一部を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領され、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとしている。さらに、同条は使用者が労働者に対して有する債権をもって労働者の賃金債権と相殺することを禁止する趣旨をも包含するものであるが、労働者がその自由な意思に基づき右相殺に同意した場合においては、右同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、右同意を得てした相殺は右規定に違反するものとはいえないと解されている(最高裁昭和四八年一月一九日第二小法廷判決・民集二七巻一号二七頁、最高裁平成二年一一月二六日第二小法廷判決・民集四四巻八号一〇八五頁)。このような趣旨に照らせば、賃金の引下げについても、労働者がその自由な意思に基づきこれに同意し、かつ、この同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することを要するものと解するのが相当である。

被告は、殊に平成四年五月及び平成五年五月の賃金変更について、原告らが特に異議等を申し立てず、各査定時期には自己申告書を被告に提出するなど現状を肯定して従前どおりの就業を続けていたことを理由に、黙示に承諾した旨主張し、また、課長以上管理職の給与を一律カットしたことについて、被告の営業成績が悪化し、危機的状況にあるところから、課長以上の管理職及び役員の奮起を促すために行われたものであり、事前に被告の代表取締役が放送し、役員が直接の部課長に協力を求め、全員異議なくこれに応じたことを理由に、原告らが同意した旨主張するが、これらの主張の趣旨は、要するに、被告が決定した内容について原告らが明示的に異議を述べなかったことが黙示の承諾又は同意に当たるというものである。しかしながら、被告の主張するような事実を理由に原告らがその自由な意思に基づきこれに同意したものということはできないし、この同意が原告らの自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するということもできない。

被告の右主張は採用できない。

四  就業規則の変更の合理性について

1  就業規則の変更の不利益性について

(一) 制度改変自体の不利益性について

平成六年一一月一日の給与規定八条の新設ないし改定以前に、被告において本件変動賃金制(能力評価制)が採られていた事実が存しないことは既に述べたとおりである。

被告は、平成四年五月以降、特に手数料収入の実績を重視して引下げを含めた役職(資格)又は職能給の号棒の決定をするようになり、平成六年一一月一日の給与規定八条の新設ないし改定により就業規則上の根拠も整備し、本件変動賃金制(能力評価制)を導入したものということができる。被告の従業員は、従前の職能資格制度、職能給制度の下では、一定の資格に見合う職務遂行能力が備わっているといったん判断されれば、心身の障害等の特別の事情が生じた場合は別として、営業実績や勤務評価が低下したことを理由にその職務遂行能力を備えないものとして降格され、又は号棒を引き下げられることはなかったから、企業の業績悪化により従業員の全部又は一部が一律又は割合的に賃金が減額されることがあることは別として、短期的なサイクルでの市場経済の変動等の外部の要因のために、あるいは一時的に自らが不調に陥ったために、営業実績が低下しても、それを理由として個々人が降格されたり、個別的に減給されることはなく、安定した賃金収入を得ることができる保障があり、より長期的なサイクルの中で営業実績を挙げることにより昇格することができるという安定した地位にあった。しかるに、本件変動賃金制(能力評価制)が導入されたことにより、被告の従業員は、右のような安定した賃金収入を得ることができる保障や、より長期的なサイクルの中で営業実績を挙げることにより昇格することができるという安定した地位を失い、営業実績が低下すれば、それを理由として降格されたり、個別的に減給される危険があるという不安定な状態に置かれることとなった。その反面、本件変動賃金制(能力評価制)の導入により職能資格制度、職能給制度が変質し、年功を加味した運用がなくなることに伴い、営業実績を挙げれば、従前の職能資格制度、職能給制度の下よりも早期に昇格する可能性が生じたといえないことはない。しかし、右の降格若しくは減給の危険又は早期昇格の可能性がどの程度顕在化するかは、本件変動賃金制(能力評価制)導入当時の実情いかんによって左右されるから、この実情を踏まえて不利益性の有無を判断することとするのが相当である。被告は、前記のとおり、平成四年五月以後、原告らだけでなく、被告の従業員を成績不振を理由に降格する措置を執ってきており、平成六年一一月一日の給与規定八条の新設ないし改定はこのような実績を踏まえているものと考えられる。そこで、平成六年一一月一日の給与規定八条の新設ないし改定による就業規則の変更の不利益性の有無については、平成四年五月以後の被告の運用の実態を踏まえて考察する必要がある。

(二) 本件変動賃金制(能力評価制)の運用の実態について

(1) 乙第六七号証の一から同号証の三まで、第六九号証から第七七号証までによれば、次の事実を認めることができる。

被告は、人事考課、査定を行うに当たって、営業職の従業員(正社員)の年間人件費が年間手数料収入の二五パーセントになるようにするというおおよその基準を設定し(その後従業員の減少等を受け、三三パーセントをおおよその基準とするようになっている。)、各従業員についてこの比率(分配率)を基準にして、これを超える場合には役職(資格)又は職能給の号棒を引き下げる対象とし、特にこの比率が四〇パーセント以上になれば直ちに役職(資格)又は職能給の号棒を引き下げる必要があると考えて運用している。また、被告は、経営方針書に記載されている「セールス(標準)」、セールスマニュアルに記載されている「セールスランク」に示されている役職(資格)別営業目標に対する各人の営業実績の達成度合い、特に手数料及び預り資産の増減を重要視し、役職(資格)別営業目標手数料と各人の実績とが何ランク異なるかに着目し、実績が二ランク以下の者については、役職(資格)又は職能給の号棒を引き下げる必要性が高くなると考えて運用している。人事考課、査定の判断要素としては、以上のほか、その者の能力、人物、人事異動がされた直後か否か、新規店舗の配属か否か、病気の有無、過去における貢献度の程度、ゼロディフェクツ(ZD)の有無(証券取引法、証券取引所及び証券協会の規則や定款を遵守しているか否か)、セールスマニュアル等に示されている経営方針の遵守等、顧客損益等である。

(2) 乙第九一号証によれば、次の事実を認めることができる。

バブル崩壊後の証券業界の不況の中で、次のとおり、被告の受入れ手数料、殊に株式売買委託手数料が激減し、営業収益及び経常利益が悪化する等、被告の財務状況は悪化した。

(受入れ手数料) (株式売買委託手数料)

平成三年三月期 六九億二六〇〇万円 六三億五二〇〇万円

平成四年三月期 三二億六六〇〇万円 二八億七七〇〇万円

平成五年三月期 二一億一七〇〇万円 一七億九一〇〇万円

平成六年三月期 三四億二四〇〇万円 二九億四二〇〇万円

平成七年三月期 二四億七六〇〇万円 二〇億〇六〇〇万円

平成八年三月期 二八億三五〇〇万円 二四億二八〇〇万円

平成九年三月期 二八億一一〇〇万円 二三億六一〇〇万円

平成一〇年三月期 一八億九五〇〇万円 一六億四二〇〇万円

(3) 平成四年四月から平成八年四月までの間の昇格者、降格者並びに警告者及び激励者は次のとおりである。

(昇格者) (降格者) (警告者    (役員、

及び激励者) 従業員)

平成三年三月期 (四一八人)

平成四年五月

四一人  三人 三八四人

平成四年一〇月

二人  三人

平成五年五月

七〇人  一人 三一八人

平成五年一一月

八人

平成六年五月

二三人  九人 警告者一四人 二八八人

激励者三七人

平成六年九月、一〇月

九人  七人

平成七年五月

三二人  四人 激励者一八人 二五〇人

平成七年一〇月

八人  一人 激励者二一人

平成八年四月

三五人  二人 二三三人

平成九年三月期 (二一四人)

平成一〇年三月期 (一七七人)

(三) 就業規則の変更の不利益性について

右認定に基づいて就業規則の変更の不利益性について考えると、次のとおりである。

被告の従業員は、(一)で述べたように、従前の職能資格制度、職能給制度の下での安定した賃金収入を得られる保障を失い、不安定な状態に置かれることとなった。しかも、被告は、就業規則の変更に先立ち、平成四年五月ころから、営業職の従業員(正社員)の年間人件費が年間手数料収入の二五パーセントになるようにするというおおよその基準を設定し(その後従業員の減少等を受け、三三パーセントをおおよその基準とするようになっている。)、各従業員についてこの比率(分配率)を基準にして、これを超える場合には役職(資格)又は職能給の号棒を引き下げる対象とし、特にこの比率が四〇パ一セント以上になれば直ちに役職(資格)又は職能給の号棒を引き下げる必要があると考えて現に運用しているから、このことを併せて考えると、営業職の従業員(正社員)は、本件変動賃金制(能力評価制)の導入によって、自らが獲得する年間手数料収入のおおむね二五パーセント(その後おおむね三三パーセント)の給与の支給を受けることとなったのであり、多額の年間手数料収入を得れば昇格、昇給して給与が増えることになるが、年間手数料収入が減少してこれに対する給与の比率が四〇パーセント以上になれば直ちに降格、号棒引き下げの措置を受けて給与が減額されることとなったということができる。この運用の結果を見ると、原告らは前記のとおり大幅に賃金が減額されている上、乙第九一号証によれば、被告は希望退職者の募集や整理解雇を行っていないのに、役職員の合計人数が、平成三年三月期四一八名、平成四年三月期三八四名、平成五年三月期三一八名、平成六年三月期二八八名、平成七年三月期二五〇名、平成八年三月期二三三名、平成九年三月期二一四名、平成一〇年三月期一七七名、同年八月一七一名と年々大幅に減少していることが認められ、このことに基づいて考えると、被告が新卒者の採用を手控えたことを考慮しても、本件変動賃金制(能力評価制)の導入により被告の従業員が安定した賃金収入を得ることができなくなり、大幅に賃金が減額される事態が生じているため、退職を余儀なくされている者が相当数生じた事実を推認することができる。その反面、本件変動賃金制(能力評価制)の導入により職能資格制度、職能給制度が変質し、年功を加味した運用がなくなるから、営業職の従業員(正社員)は、本件変動賃金制(能力評価制)の導入に伴い、営業実績を挙げれば、従前の職能資格制度、職能給制度の下よりも早期に昇格する可能性が生じたといえないことはないが、これはいまだ抽象的な可能性にとどまる。営業職の従業員(正社員)は、従前の職能資格制度、職能給制度の下でも、比率は別として、多額の年間手数料収入を得れば昇格、昇給することができたのであり、本件変動賃金制(能力評価制)の下でこれと同程度の年間手数料収入を得た場合に、実際にどの程度昇格の度合いが速まったかを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、本件変動賃金制(能力評価制)の導入により、被告の従業員は、賃金減額の可能性が生じたというにとどまらず、多くの従業員が実際に不利益を受けることとなったものということができ、その不利益の程度も大きいものといわざるを得ない。

2  就業規則の変更の合理性について

(一)  就業規則の不利益変更については、最高裁判所の判例がその要件及び判断手法を明らかにしているところである(最高裁判所昭和四三年一二月二五日大法廷判決・民集二二巻一三号三四五九頁、最高裁判所昭和五八年一一月二五日第二小法廷判決・裁判集民事一三〇号五〇五頁、最高裁判所昭和六三年二月一六日第三小法廷判決・民集四二巻二号六〇頁、最高裁判所平成四年七月一三日第二小法廷判決・裁判集民事一六五号一八五頁、最高裁判所平成八年三月二六日第三小法廷判決・民集五〇巻四号一〇〇八頁、最高裁判所平成九年二月二八日第二小法廷判決・民集五一巻二号七〇五頁参照)。すなわち、最高裁判所平成九年二月二八日第二小法廷判決(第四銀行事件)の判示しているところに従い、変更の必要性及び変更後の内容自体の合理性の両面から見て、変更による不利益性を考慮してもなお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するか否かを判断すべきである。特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。

(二) 変更の必要性について

乙第九一号証によれば、バブル崩壊後の証券業界の不況の中で、被告の受入れ手数料、殊に株式売買委託手数料が激減したこと(それぞれ平成三年三月期には六九億二六〇〇万円、六三億五二〇〇万円であったが、平成四年三月期には三二億六六〇〇万円、二八億七七〇〇万円、平成五年三月期には二一億一七〇〇万円、一七億九一〇〇万円、平成六年三月期には三四億二四〇〇万円、二九億四二〇〇万円であったこと)、営業収益は平成四年三月期には平成三年三月期に比べて半減し、以後減少、増加が繰り返されているものの平成四年三月期に営業収益まで回復せず(平成三年三月期が一一五億〇四〇〇万円、平成四年三月期が五五億五五〇〇万円、平成五年三月期が三一億六一〇〇万円、平成六年三月期が四六億九五〇〇万円)、経常利益は平成四年三月期に赤字に転落し、以後ある程度持ち直した年度があるものの、低迷していること(平成三年三月期が一〇億九三〇〇万円、平成四年三月期が一九億六九〇〇万円の赤字、平成五年三月期が一九億六五〇〇万円の赤字、平成六年三月期が二億二七〇〇万円、平成七年三月期が六億四八〇〇万円の赤字、平成八年三月期が五二〇〇万円、平成九年三月期が六億八九〇〇万円、平成一〇年三月期が七三〇〇万円の赤字)、純財産額は平成四年三月期以後年々減少していること(平成三年三月期が一二九億八六〇〇万円、平成四年三月期が一一〇億七三〇〇万円、平成五年三月期が九四億六三〇〇万円、平成六年三月期が九四億七〇〇〇万円、平成七年三月期が八四億三七〇〇万円、平成八年三月期が八四億三二〇〇万円、平成九年三月期が八六億九七〇〇万円、平成一〇年三月期が七九億二五〇〇万円)、被告の販売費・一般管理費及びそのうち従業員給与は、平成三年三月期にそれぞれ六八億五〇〇万円、二一億二四〇〇万円であったこと、自己資本リスク比率は平成三年三月期が二〇三パーセント、平成四年三月期が168.5パーセントであったこと、以上の事実が認められ、この認定に基づいて考えると、受入れ手数料、殊に株式売買委託手数料が激減したことにより営業収益及び経常利益が悪化したため、被告が従業員給与を削減する必要があったことは、これを肯定することができる。

(三) 変更の合理性について

(1)  本件変動賃金制(能力評価制)は、これを一般的な制度として見る限り、不合理な制度であるとはいえないが、従前採られていた一般的な意味での職能資格制度、職能給制度と比べると余りに大きな制度の変革であり、被告の従業員は、前記のとおり、職能資格制度、職能給制度の下での安定した賃金収入を得られる保障を失い、不安定な状態に置かれ、大きな不利益を受けている。被告の従業員は、本件変動賃金制(能力評価制)の下で、営業実績を挙げれば従前の職能資格制度、職能給制度の下よりも早期に昇格する可能性が生じたといえないことはないが、従前の職能資格制度、職能給制度と比べて昇格の度合いが速まったことを認めるに足りる証拠はないから、この抽象的な可能性をもって不利益性が一部減殺されるものということはできない。そうすると、被告に業績の悪化に伴い人件費を削減する経営上の必要性があり、かつ、本件変動賃金制(能力評価制)が一般論として合理制を有する制度であるというだけで直ちに変更の合理性を肯定することはできないから、これらの点を前提としつつ、更に検討する。

(2)  まず、右の各点に加え、本件変動賃金制(能力評価制)導入に際し、代償措置その他関連する労働条件の改善がされており、被告の従業員が受ける不利益が相当に減殺され、本件変動賃金制(能力評価制)導入を受忍すべきであるということができるのであれば、変更の合理性を肯定することができる。

次に、代償措置その他関連する労働条件の改善がされていないとしても、前記の各点が備わっていることに加え、既存の労働者のために適切な経過措置が採られているのであれば、変更の合理性を肯定することができる。また、代償措置その他関連する労働条件の改善がされておらず、既存の労働者のために適切な経過措置が採られているともいえないとすれば、前記の各点の具備に加え、少なくとも現に雇用されている従業員が、相当程度減収とはなるものの、以後の安定した雇用の確保のためにはやむを得ない変更であると納得できるものである等、被告の業績悪化の中で労使間の利益調整がされた結果としての合理的な内容と認められる場合に、変更の合理性を有するものと解するのが相当である。

さらに、代償措置その他関連する労働条件の改善がされておらず、既存の労働者のために適切な経過措置が採られているともいえず、現に雇用されている従業員が以後の安定した雇用の確保のためにはやむを得ない変更であると納得できるものである等、被告の業績悪化の中で労使間の利益調整がされた結果としての合理的な内容と認めることもできないとすれば、変更の必要性として、被告の業績が著しく悪化し、本件変動賃金制(能力評価制)を導入しなければ企業存亡の危機にある等の高度の必要性が存することを要するものと解するのが相当である。

(3)  以上の見地から検討すると、被告は、本件変動賃金制(能力評価制)導入に際し、代償措置その他関連する労働条件の改善措置を何ら執っておらず(営業奨励金の支給に関しては後記五、4、(三)を参照)、既存の労働者のために適切な経過措置を執ったわけでもないし、現に雇用されている従業員にとって、以後の安定した雇用の確保のためにはやむを得ない変更であると納得できる合理的な内容のものであることを認めるに足りる証拠はなく(前記のとおり、平成六年一〇月に成績不良とされた者一八名が発表された際、被告は、該当者に対し、給与が減額となるが、専任職を選択することもできる旨説明し、専任職への転換を促し、これに基づいて名古屋地区の一〇名が専任職を選択しているのであり、このことに照らしても、安定した雇用の確保が本件変動賃金制(能力評価制)導入の目的とはいえない。)、その他その内容が被告の業績悪化の中で労使間の利益調整がされた結果としての合理的な内容であると認めるに足りる証拠はない。

この点に関し、被告は、本件就業規則の変更に際し、従業員の過半数から選出された代表者である脇田圭一の同意を得たことを理由に、本件就業規則の変更が多数従業員の意向を反映したものであると主張する。たしかに、乙第八六号証によれば、被告が中央労働基準監督署長に対し、給与規定変更の届出をした際、脇田圭一が、従業員代表として、意見書に署名捺印し、同意する旨を記載したことを認めることができるが、この同意書(乙第八六号証)以外にはこの点に関する何らの証拠がない。脇田圭一がどのような手続で従業員代表として選出(選定)されたのか、どのような手続で従業員の意見が提出、集約されたのか、従業員の意見がどのようなものであったかについては、脇田圭一が従業員代表として意見書に署名捺印し、同意する旨を記載してから長年が経過したわけではないことからすると、被告としては右の各点を主張立証することが可能であり、これを行ってしかるべきであると考えられるが、何ら主張立証がない。したがって、脇田圭一が、従業員代表として、給与規定変更の届出書に添付された意見書に同意する旨を記載して署名捺印したことに基づいて、本件就業規則の変更が多数従業員の意見を反映したものであり、その内容が労使間の利益調整がされた結果としての合理的な内容であると推認することはできない。

(4)  したがって、変更の必要性として、被告の業績が著しく悪化し、本件変動賃金制(能力評価制)を導入しなければ企業存亡の危機にある等の高度の必要性が存することを要するものと解するのが相当であるが、バブル崩壊後の証券業界の不況の中で、被告の受入れ手数料、殊に株式売買委託手数料が激減し、自己資本リスク比率は平成三年三月期が二〇三パーセント、平成四年三月期が168.5パーセントであったから、人件費を削減する経営上の必要性があったことは肯定できるものの、自己資本リスク比率が平成五年度以降は前記のとおり改善されてきていることに照らすと、本件変動賃金制(能力評価制)を導入しなければ企業存亡の危機にあったとまでいうことは困難である。

(5)  そうすると、本件変動賃金制(能力評価制)は、被告に業績の悪化に伴いこの制度を導入する経営上の必要性があったことは肯定できるし、本件変動賃金制(能力評価制)が一般論として合理性を有する制度であることは否定できないが、代償措置その他関連する労働条件の改善がされておらず、あるいは既存の労働者のために適切な経過措置が採られているともいえず、あるいは不利益を緩和する措置が何ら採られているともいえず、あるいは不利益を緩和する措置が何ら執られていないとしても、現に雇用されている従業員が以後の安定した雇用の確保のためにはそのような不利益を受けてもやむを得ない変更であると納得できるものである等、被告の業績悪化の中で労使間の利益調整がされた結果としての合理的な内容と認めることもできない。労働者にここまで大きな犠牲を一方的に強いるものであるとすれば、変更の必要性としては、被告の業績が著しく悪化し、本件変動賃金制(能力評価制)を導入しなければ企業存亡の危機にある等の高度の必要性が存することを要するが、本件変動賃金制(能力評価制)導入当時そのような高度の必要性が存したことを認めるに足りる証拠はないから、変更の合理性を肯定することはできない。

五  平成四年から平成八年までの毎年五月に作成する給与システムにおいて諸手当を減額した措置の適法性について

1  前記のとおり、被告の給与システムで諸手当が減額され、その結果給与が減額されることとなったのは平成三年五月作成の給与システムにおいてが初めてであり、以後作成された給与システムでは諸手当が更に減額された。平成三年五月作成の給与システムから平成五年五月作成の給与システムまでは役付手当、営業管理手当、事務管理手当及び営業手当が減額されたものの、職能給が増額されたので、給与額(合計額)の減額としては緩和されていた。しかし、平成六年以後に作成された給与システムでは、役付手当、営業管理手当又は事務管理手当が減額された一方で、職能給増額が若干ないし零にとどまっているので、減額の程度は大きくなっている。

2  原告甲野は、平成四年四月の時点で六職級一一号棒(給与システムの職能給表で対応する年齢は三八歳、原告甲野は四九歳)に格付けされていた。六職級一一号棒の職能給、役付手当、住宅手当及び営業手当のその後の経過は次のとおりである(毎月五月の時点である。なお、ここでは千円、百円と表示した。)。併せて、原告甲野が年齢に応じて昇給していたとした場合の職能給を※印で付して記載する。

(職能給)  (役付手当)

(住宅手当)  (営業手当)  (合計)

平成三年 三一万九五百円 一一万円

八万一千円  六万円   五七万五百円

(その他二万九五〇〇円を含めて六〇万円)

平成四年 三二万四千円 九万五千円

九万円   三万円  五三万九千円

※三三万六千五百円(三九歳・一七号棒) (五五万一五百円)

平成五年 三一万八千円 七万円

九万円   二万円  五〇万三千円

五千円

※三五万円(四〇歳・二三号棒) (五三万五千円)

平成六年 三一万九千円 四万千円

九万円   二万円  四七万四千円

※三五万六五百円(四一歳・二六号棒) (五一万一五百円)

平成七年 三一万九千円  三万五千円

七万二千円  二万円   四四万六千円

※三五万六五百円(年齢表示なし・二六号棒)(四八万三五百円)

平成八年 三一万九千円  三万八千円

六万三千円  二万円   四四万円

※三五万七千円(年齢表示なし・二六号棒) (四七万八千円)

(乙第四号証から第七号証まで、第二六号証、第三一号証、弁論の全趣旨)

3  原告乙川は、平成四年四月の時点で六職級七号棒(給与システムの職能給表で対応する年齢は三七歳、原告乙川は四三歳)に格付けされていた。六職級七号棒の職能給、役付手当、住宅手当及び営業手当のその後の経過は次のとおりである(毎年五月の時点である。なお、ここでは千円、百円と表示した。)。併せて、原告乙川が年齢に応じて昇給していたとした場合の職能給を※印を付して記載する。

(職能給)  (役付手当)

(住宅手当)  (営業手当)  (合計)

平成三年 三〇万八五百円 九万五千円

八万一千円  六万円   五四万四五百円

平成四年 三一万三千円  八万円

九万円   三万円  五一万三千円

※三三万円(三八歳・一三号棒) (五三万円)

平成五年 三〇万六千円  七万円

九万円   二万五千円 四九万一千円

※三四万一千円(三九歳・一九号棒) (五二万六千円)

平成六年 三一万九千円  四万五千円

九万円   二万円  四七万四千円

※三四万九千円(四〇歳・二二号棒) (五〇万六千円)

平成七年 三一万九千円  三万五千円

七万二千円  二万円   四四万六千円

※三四万九千円(年齢表示なし・三二号棒) (四七万六千円)

平成八年 三一万九千円  三万八千円

六万三千円  二万円   四四万円

※三四万九千円(年齢表示なし・二二号棒) (四七万円)

(乙第四号証から第七号証まで、第二六号証、第三一号証、弁論の全趣旨)

4(一)  被告は、旧就業規則当時から毎年五月に定める給与システムにおいて職能給及び諸手当の具体的金額を決定しており、給与システムは就業規則の付属規程と解することができるから、被告が右のとおり給与システムにおいて諸手当を減額したことは、その結果年齢に応じて昇給したとしても給与月額が減少していることに照らせば、就業規則の不利益変更に当たり、その減額の程度も小さくない。

被告は、諸手当が付加的給付であることからすれば被告の合理的な裁量によって減額することができると主張し、あるいは、諸手当の額の変更が営業奨励金の支給を含む賃金体系全体の中での職能給や諸手当の額を見直した結果に過ぎないとして、諸手当の減額措置は一概に従業員に対する不利益な措置ということはできないと主張するが、年齢に応じて昇給したとしても現に給与月額が減少し、その程度もかなり大きいことは右に述べたとおりであり、また、営業奨励金の支給については後記のとおりであって、これらの各点に照らして考えると被告の右主張は採用することができない。

(二)他方、バブル崩壊後の証券業界の不況の中で、平成四年三月期以降被告の受入れ手数料、殊に株式売買委託手数料が激減し、営業収益は平成四年三月期には平成三年三月期に比べて半減し、以後減少、増加が繰り返されているものの平成四年三月期の営業収益まで回復せず、経常利益は平成四年三月期に赤字に転落し、以後ある程度持ち直した年度があるものの、低迷し、純財産額は平成四年三月期以後年々減少し、被告の販売費・一般管理費及びそのうち従業員給与は、平成三年三月期にそれぞれ六八億五〇〇〇万円、二一億二四〇〇万円であり、自己資本リスク比率は平成三年三月期が二〇三パーセント、平成四年三月期が168.5パーセントであったのであり、これらの事実に基づいて考えると、受入れ手数料、殊に株式売買委託手数料が激減したことにより営業収益及び経常利益が悪化したため、被告が従業員給与を削減する必要があったというべきことは前記のとおりである。

(三)  被告は、諸手当を減額する一方で営業奨励金を支給しており、成績優秀者には固定給に上乗せして月額一〇万円ないし二〇万円の営業奨励金を支給していることを理由に、男性の営業員一人当たりの平均年収が平成二年三月期とそれ以後とでほとんど減少しておらず、むしろ微増しているとし、この営業奨励金の支給は代償措置に当たると主張する。

乙第四五号証、第八七号証及び証人小川和良の証言によれば、被告は、営業員に対し営業奨励金を支給しており、その合計額は、平成五年度で一五六八万円、平成六年度で九四五万円、平成七年度で三四五四万円及び平成八年度で二六三七万円であること、被告は諸手当の減額に際し営業奨励金の支給基準を見直し、以前よりも緩やかにしたこと、以上の事実が認められる。さらに、乙第八七号証の記載及び証人小川和良の供述中には、被告の右主張に沿い、営業員(男性)の一人当たりの平均年収は平成四年以降も平成二年三月期と比較して減少していない旨の部分がある。

しかしながら、前記(二、1、(四))のほか、乙第五八号証によれば、平成八年三月以降のセールスマニュアルによる営業奨励金の支給基準は、営業員の場合、手数料の二パーセント相当額(営業奨励金は五〇〇〇円刻み)、預かり資産増加額一〇〇〇万円につき一万円の割合で算出する金額、新規顧客の開拓として金額一〇〇万円以上であれば二件で五〇〇〇円、三件で一万円、五件以上一万五〇〇〇円、金額一〇〇〇万円以上であれば一名につき一万円の割合で算出する金額、投資販売額につき店頭株オープンならば販売手数料の一〇パーセント相当額(営業奨励金は五〇〇〇円刻み)等を合算するというものであるが、手数料は給与の三倍以上あることが必要であり(平成七年三月改訂のセールスマニュアルでは手数料が給与の四倍以上の場合に支給されることとされていたから、この点では要件が緩和された。)、金額一〇〇〇万円以上の新規顧客の開拓は月間手数料一〇万円以上が必要であり、営業奨励金支給額最高は二〇万円とし、しかも査定基準が設けられていて、手数料が給与の三倍未満の者、四倍未満の者、五倍未満の者、六倍未満の者は営業奨励金合計支給額の上限がそれぞれ三万円、六万円、九万円及び一二万円とされており、さらには、営業奨励金の支給基準と一体ものとしてペナルティー基準まで定められていて、営業員の場合、手数料が給与の三倍未満であるときには営業管理手当と営業手当の合計額が二万円以上であればペナルティー七〇〇〇円、営業手当が一万五〇〇〇円であればペナルティー五〇〇〇円、営業手当が一万円であればペナルティー三〇〇〇円が科され、これに該当すると、営業奨励金からその三分の一を上限としてペナルティーに充当することとされていることが認められ、この事実に基づいて考えると、営業員が実際に受領できるものとして営業奨励金の支給を受けるには相当大きな営業実績を挙げることが必要であると考えられる。これに加えて、営業員四〇人(乙第九七号証によれば、プレーイングマネージャーの部店長を除く営業員は、平成七年当時六三名、平成八年当時五二名、平成九年当時四〇名、平成一〇年当時三七名であることが認められる。)が月三万円又は月六万円の割合で営業奨励金の支給を受けると仮定して計算すれば、年間の営業奨励金支給額合計がそれぞれ一四四〇万円又は二八八〇万円となるが、これらの数字と比較すると、前記の営業奨励金支給実績は、平成七年度がかなりよく、六三名で除した一人当たりの月額が約四万五七〇〇円となり、また、平成八年度が一人当たりの月額約四万二三〇〇円となるものの、平成五年度及び平成六年度は営業員六〇名で計算しても営業奨励金支給実績はよくないこと、平成四年五月以降の給与システムにはそれ以前の給与システムと異なり、給与総額の記載や職級別のアップ率等の記載がなく、また、営業奨励金についても平成四年度以前の支給実績が明らかにされていないので、諸手当の減額による営業員の給与総額の減少分がいくらなのか、また、平成五年度以降の各年の営業奨励金の支給実績が平成四年度以前と比べて実際にいくら増えているのかが明らかでないことからすれば、営業員にとって営業奨励金の支給が前記の給与減額分をどの程度補填するものとなっているか疑問が残らざるを得ないところであるが、平成四年度以前及び以後の支給実績を端的に知ることができる証拠はない。以上の各点に照らせば、乙第八七号証の前記記載部分及び証人小川和良の前記供述部分は、その信用性の裏付けが十分ではなく、その内容どおりの事実を認めるに足りない。

そうすると、営業奨励金の支給が代償措置に当たると認めることはできないし、他に被告が諸手当を減額するに際し、代償措置その他関連する労働条件を改善したことを認めるに足りる証拠はない。また、被告が諸手当を減額する措置を決定するに先立ってあらかじめ従業員との間で十分協議を行う等して労使間の合理的な利益調整に努めたことを認めるに足りる証拠はないから、諸手当の減額措置が、現に雇用されている従業員にとって、相当程度減収とはなるものの、以後の安定した雇用の確保のためにはやむを得ない変更であると納得できるものである等、被告の業績悪化の中で労使間の利益調整が十分行われた結果としての合理的な内容であると認めるには不十分である。

(四)  以上、諸手当の減額による不利益の程度が大きく、内容自体の相当性を認めるには不十分であることを考えると、従業員給与削減の必要は認められるが、前記のとおり企業存亡の危機にあった等の高度の必要性まで存したということができないことはここでも当てはまるから、就業規則変更の合理性があると認めるには不十分であるといわざるを得ない。

5  よって、被告が平成四年から平成八年までの毎年五月に諸手当を減額した措置の適法性を肯定することはできず、この点に関する被告の主張は理由がない。

六  課長以上管理職の給与を一律カットした措置と就業規則の不利益変更の合理性について

乙第八七号証及び弁論の全趣旨によれば、被告が課長以上管理職の給与を一律カットしたのは、給与システムの改定その他の就業規則の変更の方法によるものではなく、被告代表者の判断の下に取締役会でこれを決定し、部店長会議で発表し、役員が直接部課長等に協力を求めるとともに、社長自らこれを社内放送で全社員に告知、伝達していたことが認められるから、この措置は就業規則の変更ではなく、かえって就業規則の内容に反する措置を執ったに過ぎないものというべきである。したがって、これが就業規則の変更に当たることを前提とする被告の主張は失当である。

七  原告らによる賃金の減額部分の支払請求と権利の濫用、信義則違反について

1  原告乙川の採用当時の格付が、給与システムにおいて定められたモデル給与表の年齢基準に対応する職位、職能給の号棒はもち論のこと、島田一夫が算出した課長職のモデル給与例と比較しても大きく下回るものであったことは前記のとおりである。また、原告甲野については、年収九二〇万円を一年間保障する特別の措置が執られたことは事実であるが、この措置を執っても給与システムにおいて定められたモデル給与表の年齢基準に対応する職位、職能給の号棒を下回るものであったことも、既に述べたとおりである。

原告らが採用されるに際して被告に過去の営業実績を過大に告げ、もって実力以上の待遇を受けたことを認めるに足りる証拠はなく、右の事実によれば、被告は、原告らを採用するに当たり、原告甲野に対する一年限りの特別措置を別とすれば、年齢に対応したモデル給与例よりも原告らを低く処遇し(殊に原告乙川について顕著である。)、以後原告らの営業実績次第で昇格、昇進させることとしたものであり、原告らを新規採用の従業員と同様の賃金体系で処遇すべく、その中に位置付けたものというべきである。

2(一)  原告らの営業成績について

乙第五八号証、第五九号証の一から四まで、第六〇号証の一、二、第六三号証から第六六号証まで、第七八号証から第八一号証まで、第八七号証、第九三号証、第九四号証の一、二、第九五号証から第九七号証までによれば、次の事実を認めることができる。

(1) 原告らの手数料収入の実績

平成四年度においては、原告乙川は手数料収入が二七三六万円であり、これを年収で除した分配率が二五パーセントで、これら両面で課長職一三人中最上位の成績を挙げた。原告甲野は、手数料収入が課長職一三人中一二番目であった。

平成五年度においては、原告乙川は手数料収入が二〇六四万円であり、課長職一七人中九番目であった。原告甲野は、手数料収入が課長職一七人中一三番目であった。

平成六年度においては、原告乙川及び原告甲野は手数料収入が課長職一七人中一三番目であった。

平成七年度においては、原告乙川は手数料収入がプレーイングマネージャーの部店長を除く全営業員六三名中五五番目であり、原告甲野は手数料収入が六三名中四一番目であった。

平成八年度においては、原告乙川は手数料収入がプレーイングマネージャーの部店長を除く全営業員五二名中四七番目であり、原告甲野は手数料収入が五二名中三二番目であった。

平成九年度及び平成一〇年度の原告らの手数料収入は他の営業員と比べて悪い。

(2) 原告らの平成四年度以降の顧客又は取引の新規開拓、預かり資産残高は少ない。

(二)  原告らに対する預かり資産の配分について

しかしながら、他方、甲第六四号証、第七一号証、原告甲野太郎及び原告乙川次郎各本人尋問の結果によれば、被告は、平成七年三月改訂のセールスマニュアル(乙第三三号証の六)からは、「中途採用、他社から転職の人は全部自分のもってきた、つくった客でやる。契約の精神(平等、互恵)営業の内容にてやる。」という記載を加えるに至り、原告らに従前配分されていた預かり資産は原告らから他の営業員に移転されたこと、以後原告らには、退職した他の営業員の預かり資産が配分されることは一切なかったこと、預かり資産の多寡によって営業成績は大きく左右されること、以上の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(三)  以上のとおり、手数料収入の実績を見ると、平成四年度及び平成五年度における原告乙川の手数料収入の実績は、平成四年度が課長職中最上位であり、平成五年度は課長職一七人中九番目であったから、むしろ課長職の水準以上のものであった。原告甲野はこれら両年度においては課長職中平均以下であったが、被告が主張するように営業成績が劣悪であったとまではいえない。これに対し、平成七年度以降は原告らの手数料収入の実績は悪くなって来たし、原告らの平成四年度以降の顧客又は取引の新規開拓、預かり資産残高は少ないが、他方、被告は、平成七年三月以後改訂のセールスマニュアルにおいて前記の方針を打ち出して以後、原告らに従前配分していた預かり資産は他の営業員に移転し、原告らには退職した他の営業員の預かり資産を全く配分しなくなったものである。

3  1及び2の事実に照らして考えると、原告らの本件請求が権利の濫用に該当し、又は信義則に反するものということはできない。

八  被告が執った前記各措置と事情変更の原則の法理について

七、1及び2の事実に照らして考えると、原告らと被告との間で、原告らの責に帰すべき事由により既存の労働条件のままで契約を存続させることが不公平、不合理になったものということはできないから、この点に関する被告の主張は、その前提を欠き、採用することができない。

九  時効について

1  原告らが本件訴訟を提起したのが平成七年二月一六日であることは、本件訴訟記録上明らかである。原告らの請求中平成五年一月二五日以前を弁済期とする分については、本件訴訟提起までの既に二年が経過した。被告は、消滅時効を援用している。

よって、原告らの請求中平成五年一月二五日以前を弁済期とする分については理由なきに帰したものである。

2  原告らは、被告の右時効の援用が、時期に後れた攻撃防御方法であるにとどまらず、時効の援用権の濫用であり、信義則に違反すると主張する。

しかしながら、被告の右時効の援用が故意又は重大な過失により時機に遅れて提出した攻撃防御方法であるということはできないし、これにより本件訴訟の完結を遅延させることとなるということもできない。また、原告らが根拠とする事実では、いまだ被告の右時効の援用が援用権の濫用であり、信義則に違反するものと認めるに足りない。

一〇  結論

1  原告らの将来の未払賃金支払請求中本判決確定の日の翌日以降の賃金請求に係る訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合の要件を欠くから、不適法として却下する。

2  原告らの請求中平成五年一月二五日以前を弁済期とする次の請求については理由がないから、棄却する。

(一) 原告甲野については、平成四年五月分から同年一〇月分まで毎月八万九〇〇〇円の割合による未払賃金及び同年一一月分から平成五年一月分まで毎月一〇万九四四〇円の割合による未払賃金、以上合計金八六万二三二〇円

(二) 原告乙川については、平成四年五月分から同年一〇月分まで毎月三万三〇〇〇円の割合による未払賃金及び同年一一月分から平成五年一月分まで毎月五万三〇六〇円の割合による未払賃金、以上合計金三五万七一八〇円

3  2のほか、原告甲野の請求は、平成三年五月の時点で格付けされていた六職級一一号棒を前提に、当時支給されていた職能級三一万九五〇〇円、役付手当一一万一〇〇〇円、住宅手当八万一〇〇〇円及び営業手当六万円、以上合計五七万〇五〇〇円が原告甲野の賃金月額であるものとして、これを基準として賃金未払額を算定すべきであり、これを超える月額二万九五〇〇円に係る請求は理由がないから、棄却する。

4  原告甲野の請求中認容額は次のとおりである。

(一) 平成五年二月分から平成七年一月分まで

(1) 平成五年二月分

七万九九四〇円

570,500−490,560=79,940

(2) 平成五年三月分

一〇万〇三八〇円

570,500−470,120=100,380

(3) 平成五年四月分

五万九五〇〇円

570,500−511,000=59,500

(4) 平成五年五月分から同年一〇月分まで 四七万七〇〇〇円

(570,500−491,000)×6=477,000

(5) 平成五年一一月分から平成六年四月分まで 六二万四三〇〇円

(570,500−466,450)×6=624,300

(6) 平成六年五月分から同年九月分まで 六五万七五〇〇円

(570,500−439,000)×5=657,500

(7) 平成六年一〇月分から平成七年一月分まで 八〇万二〇〇〇円

(570,500−370,000)×4=802,000

以上合計二八〇万〇六二〇円

(二) 平成七年二月分から同年四月分まで 六〇万一五〇〇円

(570,500−370,000)×3=601,500

(三) 平成七年五月分から平成八年四月分まで 三三四万四四〇〇円

(570,500−291,800)×12=3,344,400

(四) 平成八年五月分から平成一〇年九月分まで 八三五万二〇〇〇円

(570,500−282,500)×29=8,352,000

(五) 平成一〇年一〇月分から平成一一年四月分まで

二三二万七五〇〇円

(570,500−238,000)×7=2,327,500

(六) 平成一一年五月分から平成一一年一〇月分まで

二一二万一〇〇〇円

(570,500−217,000)×6=2,121,000

(七) 遅延損害金

(1) (一)の二八〇万〇六二〇円に対する平成七年一月二六日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金

(2) (二)につき各金二〇万〇五〇〇円に対する平成七年二月から同年四月までの各月二六日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金

(3) (三)につき各金二七万八七〇〇円に対する平成七年五月から平成八年四月までの各月二六日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金

(4) (四)につき各金二八万八〇〇〇円に対する平成八年五月から平成一〇年九月までの各月二六日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金

(5) (五)につき各金三三万二五〇〇円に対する平成一〇年一〇月から平成一一年四月までの各月二六日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金

(6) (六)につき各金三五万三五〇〇円に対する平成一一年五月から平成一〇月までの各月二六日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金

(八) 平成一一年一一月から本判決確定の日まで毎月二五日限り各金三五万三五〇〇円

5  原告乙川の請求中認容額は次のとおりである。

(一) 平成五年二月分から平成七年一月分まで

(1) 平成五年二月分

次の内金五万三〇六〇円

544,500−501,500×(1−0.04)=63,060

(2) 平成五年三月分

次の内金七万三一二〇円

544,500−501,500×(1−0.08)=83,120

(3) 平成五年四月分

次の内金三万三〇〇〇円

544,500−501,500=43,000

(4) 平成五年五月分から同年一〇月分まで 二八万五〇〇〇円

(544,500−497,000)×6=285,000

(5) 平成五年一一月分から平成六年四月分まで 四三万四一〇〇円

{544,500−497,000(1−0.05)}×6=434,100

(6) 平成六年五月分から同年九月分まで 五一万二五〇〇円

(544,500−442,000)×5=512,500

(7) 平成六年一〇月分から平成七年一月分まで 七二万二〇〇〇円

(544,500−364,000)×4=722,000

以上合計二一一万二七八〇円

(二) 平成七年二月分から同年四月分まで 五四万一五〇〇円

(544,500−364,000)×3=541,500

(三) 平成七年五月分から同年九月分まで 一二七万八五〇〇円

(544,500−288,800)×5=1,278,500

(四) 平成七年一〇月分から平成八年四月分まで 一九七万八九〇〇円

(544,500−261,800)×7=1,978,900

(五) 平成八年五月分から同年一〇月分 一八三万九〇〇〇円

(544,500−238,000)×6=1,839,0000

(六) 平成八年一一月分から平成九年四月分まで 一八八万四〇〇〇円

(544,500−230,500)×6=1,884,000

(七) 平成九年五月分から平成一一年四月分まで 八〇七万六〇〇〇円

(544,500−208,000)×24=8,076,000

(八) 平成一一年五月分から平成一一年一〇月分まで

二〇九万七〇〇〇円

(544,500−195,000)×6=2,097,000

(九) 遅延損害金

(1) (一)の二一一万二七八〇円に対する平成七年一月二六日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金

(2) (二)につき各金一八万〇五〇〇円に対する平成七年二月から同年四月までの各月二六日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金

(3) (三)につき各金二五万五七〇〇円に対する平成七年五月から同年九月までの各月二六日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金

(4) (四)につき各金二八万二七〇〇円に対する平成七年一〇月から平成八年四月までの各月二六日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金

(5) (五)につき各金三〇万六五〇〇円に対する平成八年二月から同年一〇月までの各月二六日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金

(6) (六)につき各金三一万四〇〇〇円に対する平成八年一一月から平成九年四月までの各月二六日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金

(7) (七)につき各金三三万六五〇〇円に対する平成九年五月から平成一一年四月までの各月二六日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金

(8) (八)につき各金三四万九五〇〇円に対する平成一一年五月から平成一一年一〇月までの各月二六日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金

(一〇) 平成一一年一一月から本判決確定の日まで毎月二五日限り各金三四万九五〇〇円

6  仮執行の宣言については次の部分に限り付することとし、その余の部分の申立てについては相当ではないから却下する。

(一) 原告甲野については4(一)、(二)、(三)並びに(四)のうち平成八年一一月分まで及び平成九年一二月分から平成一〇年四月分まで、以上合計一〇五五万六五二〇円及びこれに対する前記の各遅延損害金並びに(八)

(二) 原告乙川については5(一)、(二)、(三)、(四)、(五)、(六)のうち平成八年一一月分並びに(七)のうち平成九年一二月分から平成一〇年四月分まで、以上合計金八七二万四三八〇円及びこれに対する前記の各遅延損害金並びに(一〇)

7  仮執行免脱の宣言の申立てについては相当ではないから却下する。

(裁判長裁判官・髙世三郎、裁判官・吉崎佳弥、裁判官・植田智彦)

別紙一 給与変動表<省略>

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